第一話 第四部 ヨウムは覚えていた 後編

法廷にて。判事・モネをはじめとして、面々が席についていた。


「では被告人、主犯格とされているあなた・ロブ村八さん。あなたは先日、ライヴハウス『ろっくおん』にて、四人の仲間と共謀し、人質をとり、数十名を武器で傷害した。相違ありませんか」


「かっ、知らねぇなぁ。そんなライヴ、行ったことも聞いたこともねぇや」


一緒に捕縛された狼藉者も同調して煽り始める。


「へっ、そんなでっち上げ、誰が信じるってぇんだぃ」

「証拠とやらを見せてもらおうじゃねぇか」

「そうだそうだ、証拠を見せやがれ!」


「静粛に! では重要参考人の平藪かなこさん、あなたはこの人たちの顔を覚えていますか」


かなこ。人質にとられていた少女である。

怒りに燃えた目つきで、男たちを睨みつけて、


「はい。怖い道具を使ったりするのも見ました」


「ありがとう。…では被告人のみなさん、何も知らないという事で間違いありませんね」


すると突然、傍聴席に居た一人の男性の肩に留まっていたヨウムが喋りはじめた。


「マタヤルカラナ、マタヤルカラナ」


罪人たちが再び野次を飛ばしはじめる。


「んだ今の鳥は? それはそうと、おう、知らねぇ、知らねぇな」

「よくある冤罪だよ。大迷惑だね」

「どうせ合成したフェイク動画で逮捕状取ったんだろ? セコいよ」


かなこさんが大声で遮る。


「お吟さん、そう、あねさんって人が助けてくれました! あねさんなら知ってるはずです」


ぎくっ、としたあからさまな驚き顔を見せる狼藉者たち。


「じ、じゃあそのあねさんとやらを呼んでみろよ」

「そうだ、その通りでぃ、そのお吟さんってのがほんとにいるんならよ」

「呼べよ呼べよ、吟ちゃんって奴をよ!」


すると、モネが啖呵を切って大声で叫ぶ。


「うるさいんじゃお前ら! 静かにしとったら四の五の逃げ口上ばっか言いやがって」


そしてモネはすっくと立ちあがる。狼藉者たちがにわかに狼狽えはじめた。


「な、何のつもりでぇ…」


「あのライヴ会場で艶やかに開いた、あの如月の華。これでもまだ」


ロングスリーヴの左腕をささッと捲り、その大きな入れ墨を露わにして、


「知らぬ存ぜぬで通すんかいッ!」


見事な梅の花! これ以上どう咲けば美しくなるかという塩梅の咲き具合の絶妙な、はっきりとした枝、蕾と花、これを見事と言わずして何と言い得るだろうか!


がくり、という形容詞の文字が頭上に浮かびそうな勢いでうなだれる五人組。


☆☆☆


裁判が終わり、モネは、様々な人々と様々な感想を言い合って時間を潰していた。その一人が、ヨウムを肩に留めていた富田という青年だった。


「まさか『吟さん』が裁判長だったとは…無礼でした、謝ります」


「とんでもない。それどころか、ライヴにペット持ち込んでて大正解でしたね」


「え?」


「あたしもね、それ言われると困るなぁ~って思ったんですよ」


「というと?」


「『マタヤルカラナ』です。本来は、そのヨウムちゃんの言葉が唯一の証拠になったはずなんです。一度目にライヴを襲ったとき、ヨウムちゃんがその言葉を覚えていた。で、今回の公判中に同じ言葉を言って、罪人をほぼ確定した。あたしの出番、なくなりかけそうでしたね」


恥ずかしいのか、頭を掻く富田さん。


「そ、そうですかね」


「ヨウムちゃんのおかげです。ありがとう、ヨウムちゃん」


聞いたヨウムは、嬉しかったのか、くぇ、と素っ頓狂な声を出して頭を傾げた。


☆☆☆


挨拶を終え、モネは帰りの電車に乗るため、庶務を終えたのち、裁判所を後にする。


車中、心の中でこう言った。


「おばあちゃん、これでええんやね」


おばあちゃんの返事は、確かにモネを元気づけてくれるものだった。


第一部 終

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近森の吟ちゃん ~ JK裁判官は梅で魅せる! 上への大暴れ世直しギャル その1 博雅 @Hiromasa83

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