第一部 第一話 ヨウムは覚えていた 前編
その一部のお話です。
☆☆☆
ここに主人公がいる。名をモネという。
両親は娘の名を決めるにあたって、とくに父親が、世話になっていた鍼灸師の盲導犬の名を思いついた。この世を導く光であれと。この世を照らす炎であれ、と願って。
そして実際、モネは燃えさかる松明となるのだ。
☆☆☆
比較的大規模なライヴハウス、『ろっくおん』。そこで開かれたとあるバンドのライヴ時、真昼間にテロが勃発した。三人の漢が突如奇声を発したと思った瞬間、ナイフが持ち出され、手当たり次第に観客を襲い始めたのである。警察が来るまでの十分程度の間に、メンバー含め、ほぼすべての観客が何らかの傷を負ってしまった。犯人の一人が、「またやるからな」と大声で最後に叫んだという。
男たちは依然として逃走中である。
バンドは最近頭角を現してきた新進気鋭の四人組ロックバンド、『彼岸花のように』である。売りは、全世代へのアピール。ライヴには多種多様な人間が集い、固定客も増えてきた。特に中~大学生の人気が高かった。ティラノサウルスの着ぐるみの人。いつも同じキャラクターの全身フルコーデのコスプレイヤー。肩にヨウムを載せて、ーーしかもその鳥さんが一緒に歌うのである!ーー観劇する人。それだけに今回の事件は実に痛ましかった。
セキュリティスタッフすらいなかったライヴ。ステージの規模はけして小さくはなかったけれど、余計に、逃げようとした観客の負傷現場は阿鼻叫喚の地獄絵図を呈していたのだ。
当然、事件はモネの通う学園でも、いの一番に噂になっていた。
「えー、『彼岸花』もうライヴやんないかもよ」
「そりゃ言い過ぎでしょ。警備員でがっつり固めたら大丈夫じゃない?」
そういった、前向きなライヴ再開への道筋を期待する声もあれば、
「この次やるはずの明日のライヴでも、予告がされてるってさ」
「またかよ。予告があったらすぐやめるの、あれ厭じゃね?」
人命最優先は確かに一理あるが、との声もあった。
そして、運営会社はテロに屈しないとの姿勢でライヴを決行することとなった。
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