第3話 JKと入れ墨
16になった誕生日、五月十三日。モネはとてつもない発想で、あまりの可笑しさに一人、自室で、腹痛を起こすほど笑い転げていた。
それはとりもなおさず、自分への誕生日プレゼントとして、タトゥーを入れ、髪の毛を真っ黒に染めるということである。
大好きな祖母が好きだった盆栽。祖母が大好きだった梅。
梅の墨を、昔、格闘術の訓練中に受けた傷を枝に見立て、それを中心として八分咲きの梅の豪華なやつを、左肩から腕先に至るまでに彫り入れるという構想なのだ。しかも、この年齢で。自慢ではないがモネは自分のスタイルは良い方だと自負している。実際華奢めだし、主張するところ、しないところははっきりといった体つきなのだ。そこにあえてタトゥーを入れようというのだから。
「ありえんわwwwwwくっそwwww我ながら酷スwwwwwwwww」
ドアが開いていたのだろう、モネの母君が現れた。
「モネ、一体どうしたの?」
「かあさん! Nothing(何でもない), ...独り言や」
「お誕生日会、するんやろ? タコスとナチョス、あとチキンブリトーの準備、ほら、あなたも主役なんはわかるけど、お手伝いしてや」
「はーい」
適当に返事をする。こういうやりとりを聞いているだけでは、とてもモネが敏腕裁判官の卵だという事はとてもではないが想像できないだろう。だが彼女は本気だった。
☆☆☆
「これ、見てほしいねん」
お風呂に入り終えたモネ。両親の居るリビングを訪れると、そう二人を呼んだ。
まず両親は彼女の髪が黒髪であることに仰天した。
「あんた、銀髪があんなに自慢やったんちゃうん? どうして染めてしもたん」
「形から入ろ思てな」
そこにはどう見ても誰もが感嘆の溜息を洩らしそうなほどの良い女がいるばかりだ! まだ乾ききっていない髪は、色気すら感じさせる。
モネはそして、最新鋭遺伝子操作の自費治療を受け、髪の毛の色がずっとそのままになるという旨の説明をした。
そのすぐ後、浴衣を少し崩しながら、そこから墨を見せつけた。
母は文字通り失神してぶっ倒れた。父親は持っていた徳利を床に落とした。徳利は綺麗に真っ二つに割れてしまった。口をあんぐり開けたまま、数分が経つかと思われる長い沈黙が訪れた。暫くして父はやっと事態が飲み込めたのか、こう呟く。
「も、モネ…何をやらかしたんだ!」
それがステッカーの類でないことは誰の目にも明らかだった。
母が意識を回復してから、家族会議が始まった。
「あんた、いつそんなん入れたん」
「え? 一か月くらいかけて少しずつ」
母はため息ひとつして、
「道理で長袖が好きやったわけや。お金はどうしたん」
「バイト。裁判所行ってるっしょ」
「ったく、あーもう、なにこれ? 腕いっぱいに、偉そうに…」
「父ちゃんは認めんぞ!」
父が割り込んで来た。
「てへぺろ、もう遅いよーって」
嫌味ったらしい顔つきと声色でモネが煽る。
「こ、この…この小娘は、まったく」
「輩にでもなるつもり?」
三世とはいえ、血はやはり濃い日本人のものだったらしい。
そこにひょっこり顔を表したのが、やってきたのが9歳になる弟の哲也である。
「あ、お姉ちゃんの髪の毛変わった? 腕の絵も、かっこいい!」
「やろ? てっちゃんもそう思うやろ?」
言うと、抱き寄せて額に口づけするモネ。モネは弟を愛してやまないのだ。
悲しい哉、タトゥーアート・入れ墨は、今日の日本でもまだまだ市民権を得ていないのが現状だ。しかも今回入れたのは気づかれない場所やワンポイント(根性焼きという名前で胡麻化して入れることがある)ではなく、半身に近い範囲への入れ墨である。
だが、誰が想像し得ただろうか。
この入れ墨が、モネの裁判官としての何よりの原動力になるだろう、と…。
☆☆☆
次回から本編が始まります。一章1000~1500文字、一話3~6章程度のお話としてうpしてゆく予定です。よろしくお願いいたします。
近森の吟ちゃん ~ JK裁判官は梅で魅せる! 上へ下への大暴れ世直しギャル 博雅 @Hiromasa83
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