近森の吟ちゃん ~ JK裁判官は梅で魅せる! 上へ下への大暴れ世直しギャル

博雅

第1話 お吟の居場所

銀髪碧眼のウィリアムス嬢は賢かった。12の時に弁護士試験を突破する勢いだった。


確かに彼女は賢くて、周りから賞賛されていたかもしれない。

確かに彼女は可愛くて、そこに自分の存在意義を見出していたかもしれない。

でも、そこに彼女の居場所はなかった。


ロサンゼルスの弁護士事務所でお手伝いをしている時が一番楽しかったのかもしれない。膨大な量の資料を読めた。読めた。日が暮れるまで読んでいられた。

それでも、お吟の居場所はそこになかった。


しばらくして始めた近接格闘術も、その居場所探しの一環でしかなかった。師匠と呼んだ軍人であり、父でもあったダニエルからも、訓練開始から一年ほど経った日、「あんたに名をあげよう。『小さな虎』だ。もう免許皆伝どころの話じゃない。もう、一人前の、立派な暗殺者キラーだ」と告げた。事実、訓練中に左肩から腕先にかけて生涯残る大きく長いーー梅の花の枝のような疵だーーな裂傷を負ってしまう事故があったが、彼女は訓練を続けたのだ。

それでもやっぱり、お嬢様の居場所はそこになかった。


転機が訪れたのはいつかと問われたならば、彼女が14の時にここ・日本は尼崎に移住したころのことだと答えられるだろう。


ようやく友達も出来、学校に慣れ始めたとき。

その日は五月の二度目の金曜日で、いつもは親友らとつるみながら帰るのだが、友たちは運悪く三人とも風邪で休養していたためモネは一人で帰宅していたのだ。


すると、数十メートルほど先に、バス停らしき場所でうつ伏せに倒れている誰かを見つけた。

どう見ても人間である。近づくにつれ、それが紳士であることに気づいた。


次第に小走りになり、駆け寄る。


「大丈夫ですか」


反応はない。


しゃがみ込んで、肩をゆすったり、背中を撫でたりしながら、


「おじさん、ねぇ」


反応はまだない。


意を決した彼女は、ーー生憎スマホの充電が切れていたーー、おじさんのポケットを探る。名刺が出てきた。


判事 早乙女主水さおとめもんどとあった。


連絡先はどこかの家とある。おじさんも…スマホを持っていない。


絶望しかけたお吟は辺りを見渡すと、近くの民家の玄関から着飾った女性が出てくるのを見つけ、助けを呼ぶ。


☆☆☆


数日後、お吟のスマホに、本人からお礼の電話があった。入院が終わったら、尼崎北町裁判所に来てほしい、とのことだった。電話があったとき両親はおらず、彼女は戸惑った。これは一体、どういうことなのだろうかと。


向こうさんも相当忙殺されているのだろう、贈答品のお茶菓子の詰め合わせが届いたが、何度確認しても、裁判所に、裁判所に、との一点張りだった。どうやら、主水はお吟に直接コンタクトをとりたがっているがあった。


そして彼女は知ることとなる。彼女が助けた主水、余命三ヶ月のおじさんセンセイ。彼がお吟に裁判官としてのすべてを教えることになる、という事実を。

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