第2回短歌・俳句コンテスト【短歌】一首部門『時の船』

小烏 つむぎ

帰りたい そう泣く老女の故郷は  ダムの水底 還る路なく

帰りたい そう泣く老女そぼ故郷ふるさと

  ダムの水底 かえみちなく





 入院して記憶が曖昧になった祖母は

「帰りたい、家に帰りたい」

 よくそう言っていました。


 その時は入院するまで暮らしていた自宅に帰りたいのだろうと思っていましたが、振り返ると違っていたかもしれないと思うようになりました。


 もしかするとそれは夫婦水入らずで楽しく過ごした新婚時代の家かもしれず、また大変だった子育ての時代に借りていたという一間かもしれず、もう今はない生まれ育った懐かしい実家かもしれません。


  時の船でしか還る事の出来ないその場所への郷愁を、祖母の年に近くなった今ふと感じるのです。

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