あとがき:作者目線からのメタ的解説②(歴史とコヴィニオン王国後日譚)

 かつて、「いにしえの神々」への信仰が盛んな時代がありました。


 多くの神の名は風化し、失われましたが、太陽神フェザラーナへの信仰はわずかながらに今の時代にも残っています。


 いにしえの神々に関する古びた書物が日に焼けて砕け、塵となって散ったあとに、新たに座を占めたのがイザヴェル教典。聖天使イザヴェルを奉る一神教です。


 その威により中央平原を平定したイザヴェル教国の建国をもって、イザヴェル歴元年と数えられます。光と闇をはらみつつも、イザヴェル教国は中央平原に確固たる人間の強国を築きました。


 やがてイザヴェル教国も衰退し、現在、中央平原には五王国と呼ばれる五つの大国が君臨しています。イザヴェル教国の首都であり、現アルファザリア王国の王都でもあるカタニアの繁栄は、大陸じゅうに響き渡ります。


 サントエルマの森は、そんな人間文明の中心地から離れた辺境の地にあります。優秀な魔法使いたちのための、静かな研究と瞑想の地です。その存在は公にはされておらず、魔法使いの者以外はその名を知ることもあまりありません。


 コヴィニオン王国がある地域は、さらに離れた辺境です。まだまだ魔物たちも多い地域ですが、コヴィニオン王国は小国ながらに魔物を寄せ付けぬ地域の雄として君臨していました。


 しかし、イザヴェル歴462年のハサンの内戦と、狂気の魔女による王都エルガリアの破壊により、大幅に国力を低下させたコヴィニオン王国は、国境を維持するのにも難渋するようになります。


 今作で友誼を結んだゴブリン王国も、東の荒れ地に台頭してきた新たなホブゴブリン勢力との対決に力を削がれるようになります。こうして、せっかく打ち立てたコヴィニオン王国とゴブリン王国との交易路は、数度の交易を行ったのちに維持することが難しくなります。


 厳しい情勢のなか、新たな国王となったカザロスは、苦難の道を歩むことになりますが、〈冒険者の街〉リノンと友好関係を築き、国境近隣の魔物退治や治安維持に冒険者を活用するようになって、次第に国政運営が軌道にのりはじめます。


 また、ギヨム卿が組織した〈狼炎騎士団〉は、小規模ながらも百戦錬磨で、やがて中央平原にもその名が届くようになります。狼男ウォーウルフの一族を麾下に加えることとなったのが、その名の由来となります。本作冒頭で、ギヨムが狼男ウォーウルフと戦うシーンがありますが、奇妙な縁となります。

 

 版図を回復したコヴィニオン王国が、ゴブリン王国と再び友誼を結ぶのに、十年以上かかります。そして後に大陸全土を巻き込む大きな戦争に、期せずして巻き込まれてゆくこととなるのでした。



(サントエルマの森の魔法使い:珠玉の母 おしまい)

https://kakuyomu.jp/users/AwajiKoju/news/16818093082724246711


 

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サントエルマの森の魔法使い:珠玉(しゅぎょく)の母 淡路こじゅ @AwajiKoju

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