あとがき:作者目線からのメタ的解説①(登場人物)

ラザラ・ポーリン(三十三歳)

 サントエルマの森の女性の大魔法使い。本作開始時点で、次期森のおさの最有力候補でした。炎の魔法と、復活させた古代魔法である影の魔法を得意とします。「何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン」では、落ちこぼれの見習い魔法使いでしたが、数々の死線をくぐる冒険で力をつけ、影の魔法を復活させたことが大きな功績となり、サントエルマの森で頭角を現してゆきます。

 座学、いわゆる「お勉強」は苦手で、実戦のなかで泥臭く力をつけていくタイプです。困難に立ち向かう強い魂を持つ女性ですが、父と会ったことがなく、尊敬はしているものの母とは確執があり、家族のあり方というものが分からないままに、成熟した大魔法使いとなりました。子どものころは家に居場所が感じられず、夕焼けの野で影を追いかけて遊んでいました。それゆえに、影の魔法に対しては強い思い入れを持っています。

 今作で彼女は第一線を退き、カラレナの子育てに心血を注ぐことになりますが……彼女が真の意味で〈珠玉しゅぎょくの母〉と呼ばれるようになるまで、今しばらくの時間を要します。


クレイ・フィラーゲン(三十二歳)

 サントエルマの森の最年少の上位師ハイ・マスター。前作「白き光と黒き影:サントエルマの森の魔法使い・白髪の美丈竜」でポーリンとともに裏切り者の討伐と、ドラゴンの退治を成し遂げました。

 「努力型」のポーリンとは異なる「天才型」です。大地を操る魔法を得意とし、魔具の創成に特別な才能を示してゆきます。ローグ・エラダンの後を継ぎ、サントエルマの森の長に就任いたしましたが、本心ではポーリンを推していました。

 ポーリンとの戦いの結末については、彼自身も他人に語ったことがありません。


カザロス・ブランウェン(二十三歳)

 ラザラ・ポーリンの腹違いの弟。父ガラフ・ポーリンは、家を出たあとサントエルマの森で研究と瞑想の生活に没頭し、晩年、影の魔法を求めてコヴィニオン王国周辺で活動していましたが、そのときに縁あってできた双子の片割れです。ブランウェン大公家の末子。分家の者であったため、ハサンが大公家の男子を抹殺しなければ王になることはなかったと思われます。それゆえに、心構えのないままに御輿みこしに座らされたいえます。

 母も失い、妹とは理解し合えず、政治的に利用される立場で孤独を感じていた彼は、頼りになる姉にぞっこんです。けれども、姉に似て、いざというときの肝っ玉は据わっており、策士な一面もあります。

 ブランウェン家の者ですが彼には魔力が宿らず、「妹に魔力を与え、代わりに良心をもらいうけた」としばしば言われます。もっとも、彼が良心に満ちあふれているわけではなく、妹に良心がまったく伴っていないことの皮肉です。


アドナ・ブランウェン(二十三歳)

 ラザラ・ポーリンの腹違いの妹。カザロスの双子の妹。ブランウェン家待望の女子。〈始祖の血脈〉を継ぐと言い伝えられるブランウェン家は、その女児に特別な魔法の力が伝搬すると言われますが、ときとして不安定性も発露させます。アドナは、特別な魔法の力と、不安定性の発現者でした。

 邪悪な魔女で人格破綻者でしたが、女子の血を継ぐという、ある意味ではブランウェン家の使命を果たしたといえます。その死にぎわに、カラレナをポーリンに託した場面は、わずかながらに彼女が心を揺り動かされたことの証でもあります。


チーグ(三十歳)

 ゴブリン王国の現国王。人間の文化に興味を持ち、本を読みあさるという希有なる者――〈本読むゴブリン〉。「何者でもない者たちの物語」では、ポーリンとともに大冒険を行いました。今作で登場した”ゴブリンの角笛”は、呪われた地ダネガリスでの冒険を経て、ゴブリン史上唯一の大魔法使いヤザヴィの弟子ダネガリスから送られたものでした。


ギヨム卿(三十五歳)

 コヴィニオン王国の荘園持ちの大騎士。どの派閥にも属していなかった実直な性格で、剣術の腕前は(ハサンを除けば)コヴィニオン王国いちです。唯一の大騎士の生き残りとなり、カザロスとともにコヴィニオン王国の復興に力を尽くすこととなります。


ガルフレッド卿(四十二歳)

 コヴィニオン王国の荘園持ちの大騎士。名門コーウェル大公家と親密な関係にある。コヴィニオン王国いちの槍の使い手です。名門意識の強い、ある意味では騎士らしい騎士といえます。魔法使いのポーリンや、ゴブリンのチーグを嫌っています。成り上がり者のハサンのことも侮っており、ナルネイの野にてあっけなく討ち取られることとなってしまいました。


レジナルド・ハサン(二十九歳)

 コヴィニオン王国の荘園持ちの大騎士の家庭に生まれるも、子どものころから卓越した武力を示した彼は、ハサン家の家督を強引に継ぎ、自ら王になるためならず者たちを集めて軍を組織しました。その武力は圧倒的でしたが、ナルネイの野の戦いで超常的な力に敗れ、死亡。


カラレナ・ブランウェン(0歳)

 アドナ・ブランウェンの子、ブランウェン家の最後の血晶けっしょう。父の名は明かされていませんが、アドナと同じく〈始祖の血脈〉に連なる者とされ、歴史の裏で暗躍している暗黒の人物ともつながりがあるようです。

 次作「珠の子と白銀のネコ使い」の主人公となる予定です。


ローグ・エラダン(六十四歳)

 今作開始時点での、サントエルマの森の長です。女性です。今作で初登場ですが、名前への言及は、「何者でもない者たちの物語」の第37話においてみられます。召喚魔法と予見の術を得意としますが、猫魔法という独自の魔法を創成いたしました。

 今作で猫魔法のお披露目はありませんでしたが、次作予定の「珠の子と白銀のネコ使い」は、カラレナ・ブランウェンとエラダンの孫が中心の物語となっており、猫魔法に関連した技が見られることでしょう(笑)


ファーマムーア(伝説上の存在)

 かつて世界を滅亡から救ったとされるエル=アルマナの七人の弟子のひとり、と言われます。〈偉大なる探求心の主〉。探求心が高じて非人道的な魔法の研究にも手を染め、その手は血と死にまみれていると言われましたが、晩年改心して後進の育成にも力を注いだようです。ゴブリンの大魔法使いヤザヴィは、ファーマムーアの弟子です(ゴブリンが大魔法使いたり得るか、という〈探求心〉が追い求めた結果ともいわれる)。

 世界中の影をつなぎ止め、それを支配しようと、邪悪な同僚の力も借りて〈光と影の地平線〉を作り上げました。その偉大なるアートこそ、伝説の大魔法使いといわれるひとつの所以です。〈光と影の地平線〉の一部の力を、影の魔法として残しました。それを復活させたのが、ラザラ・ポーリンでした。


ダネガリス(亡霊)

 ゴブリンの大魔法使いヤザヴィの弟子の女ゴブリン。つまり、ファーマムーアの孫弟子ですが、ファーマムーアとダネガリスに面識はありません。ゴブリン王国リフェティの南に広がる”呪われた地” ダネガリスの野の管理者として、死後もなおこの世にとどまっています。

 魔法使いとして、ダネガリスの力はヤザヴィに遠く及びませんでしたが、その歌声には魔力を回復させる不思議な力がありました。ダネガリスの歌唱を引き立てるのが、”ダネガリスの音楽隊”。音楽と踊り好きの飲んだくれのゴブリンたちです。

 「何者でもない者たちの物語」で、ポーリンとチーグはダネガリスの野を攻略し、ダネガリスと会っています。その際、チーグに”ゴブリンの角笛”を渡しました。ゴブリンの角笛は、ダネガリスの音楽隊を召喚する力がありますが、「飲んだくれていて大して役には立たないだろう」とのことでした。



「歴史とコヴィニオン王国の後日譚」につづく

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