忘れてはいけないことをちくちくと刺激して、「忘れるな」と念を押されるような……そんな作品でした。花言葉が伝達力を増強しているのも感慨深いです。
花畑がない世界などごめんだと、戦争を知らず、平和をこの世界で誰よりも知る私たちは、突きつけたっていいはずだ。私たちは、花の名前を知り、花に想いを込め、種をまく。
争う人の愚かさを 花は見ている。争いに巻き込まれていく人の涙を見送るしかなく 告げぬ思いを遠くから慰みおくり近くでは涙を受けて花こそ見ゆる花だけが知る 戦争ありて花の見た風景それを詠んだ 作品です。他人事ではない思いを感じられることでしょう。
生きている。死んでいる。生きていたい。死なねばならない。痛み、苦しみ、傷と火傷。薫る風、透き通る故郷の空、揺れる秋桜。敵艦を正面に捉え。送ったあのひとの横顔を正面に見据え。万歳三唱。静かな涙。轟音。夕景。道を、手に手をとって。もういちど、あの道を。作者さまの提示した時間の、空の、ゆく道の遠さの。なんて広大なことだろう。ねえ、手をとって。
頭をからっぽにして読みました。花言葉と作品のテーマと、うまく絡めてあって、そこが技巧的に素敵だなと思いました。それから、575をわざと崩しているところも。でも、そういう技術面の素晴らしさよりも、胸の奥にすいっと入ってきて、じわりと悲しみを広げる感じが好きでした。深い悲しみなんだけれど、わたしはとても静かなものを感じたのです。激しい情動のあと、時が止まり音が消え失せる。そういう瞬間であるように思いました。