第八巻 √ 壊れた操り人形完結編

 第八話 ☩ エピローグ


 広がる青空の元、俺達は結果的に八月のロジックへの手掛かりを得る事無く時間を過ごして居た。未桜が川北の遺留品を調べて見るっと言って旅館に閉じ籠って居るが俺とみぃと伯と真実と成った斑鳩は長い道のりを何とか超えて浜辺までやって来て居た。トラウマに成りそうな事件だったが、俺達は被害者達の遺体が見つかる事を祈って、帰路に着く其の時まで楽しむ他無い。

「ねえ、だぁちゃん。何で川北さんは復讐みたいな事をしちゃったんだろう」

 木陰で煙草を吸っていた俺の横にピンクの水着を着たみぃが中腰で俺の顔を覗き込んで来る。

「分からんけど、怨恨は人の精神を蝕むって事なんだろうな。只結果的に本物の八月のロジックに繋がる手掛かりは見つからないかもな」

 俺の眼前で人差し指を立ててみぃが続けた。

「未桜ちゃんなら何か見つけてくれるかも知れないよ」

「どうかな。其れはそうと斑鳩って何してんだアレ」

 俺は横目に見える斑鳩へと顔を向け、両手を祈る様に組み顔を沈める斑鳩を見やる。黙祷しているのか、ブロンドの髪が海風に揺らぐ姿は急激に上がった気温で出来た陽炎で揺らいでいた。

「斑鳩ちゃんって不思議な子だよねえ。みぃみも自己紹介されたけど、だぁちゃんと殺人解体してる時の態度と今の態度が違い過ぎると言うか、やっぱり二面性が凄いのかな?」

 顔を戻し、改めて俺は目のやり場に困った。豊満な胸に視線を配る訳にもいかず、俺は煙草の煙を吐きながら上を向き、背凭れにしていた木の葉から零れる日差しに双眸を細める。

「まあ、斑鳩は斑鳩で色々あんだろ」

「兄貴い、嵐が去った後は凄い晴天っすね! 昆虫採取するっすか!?」

 海に潜って来た伯が水滴を垂らしながら俺達の方へと駆け寄って来た。

「この遊びバカ、ちょっとバカ菌がうつるから近寄んないで」

「はあ!? 江連は失礼っすね。斑鳩さんなんて僕と対等に話してくれてるんっすよ」

 こいつ等は騒がしいな。俺は一人甚平姿で海に乗り込んで来たが、未桜の手伝いでもしときゃ良かった。旅館も空調効いて無いし外も暑いし、マジアイス食いてえ。祈り終わった斑鳩が此方に一礼し、ゆっくりと旅館へ続く道のりを戻り始めた。

「あれ? 斑鳩ちゃんーもうちょっと話そうよ」

 みぃの言葉に立ち止まり、珍しく大きな声で此方に聞こえる様に返事を返してくる。

「先に戻って、帰り支度しておこうと思います」

 成る程。帰り支度か、フェリーの時刻表は旅館の入口に貼ってあったが時間なら未だあったとは思うが、そろそろ支度をしといても良い頃合いか。俺達も戻るかっと提案すると「あの長い道のり又登んの?」っと嘆く声が零れて来た。

「あっ、そだ。斑鳩ちゃんとフェリーの上でLINE登録し合おうかな、おーい、斑鳩ちゃーん!」

 行動派のみぃは思い立ったら即行動だ。伯も追い駆けて行く、本当に元気だなこいつ等。


 なんとか斑鳩と合流し、旅館に戻ると未桜が難しそうな面持ちで入口の段差で腰を下ろして居た。すると未桜は俺とみぃの手を掴み、斑鳩と伯の目の届かない誰も居ない大広間まで俺とみぃは未桜に引っ張って来られた。

「どうしたんだ?」

「例えば、うちが未然に事件を防ぐ為に此処に来ていて八月のロジックの正体を暴かなければ駄目な立場だとしたら……この何の収穫も無く、事件も起きてしまった状況を部長である長澤仁美さんにどう報告、説明すると思うっ!?」

 母さんは偉かったのか。其れは家を離れた俺にとっては初耳だ。っと言うか、結局川北の遺留品からは何の収穫も無しだったって事か。

「大人しく上司に怒られるべきだろ」

「ヤダヤダヤダ!」

 子供か、って子供だわな。

「てかさ、みぃちゃん大分セクスゥィーだね♪」

 水着の上にワイシャツ一枚羽織っているだけのみぃを見てそう言う。

「仁美ママって偉かったんだ、だぁちゃん良かったな! 将来食わせて貰おう!」

 こいつはこいつで何言ってんだ。

「本当に何も収穫無かったのか?」

「まあ、在ったと言えば在った訳で……只ちょっと部外者には漏らせない情報になっちゃったんだよね之が。一緒にフェリーに乗っては行くから電波障害が解ける位置まで行ったらLINE交換いいかなあ~? あ、因みにみぃちゃんもね」

 俺とみぃは顔を見合わせて軽く承諾する。部外者には漏らせない情報を川北は持って居たと言う事か。いや、大した情報じゃないにしても部外者には話せない、か。俺達は各自の部屋に戻り、帰路の支度を始める。しかし色々とあったな、斑鳩の存在だけでもイレギュラーだったのに未桜まで現れてさ。時刻は過ぎてゆきフェリーの到着時刻と成る。


「さあ、フェリー旅の開始だ~♪」

 未桜は警察手帳の力でフェリーのチケット無しで特別に乗る事に成った。俺達以外の乗客は居ない様子で、二条は甲板で相変わらずカメラを抱えて忙しそうにしている。片村は客室に籠ったままだし、岩井は財布の中身を数えて家計簿らしきものをテーブルに着いて書いて居た。

「兄貴、圏外解けたっすよ」

 そう言われてスマホを確認すると、確かに圏外じゃなく成っていた。俺達は斑鳩とLINE交換をし、未桜も手を振りながら甲板の船尾に居る俺達の元へとやって来る。

「あの、佐藤さん……」

 斑鳩が喋ると未桜は人差し指を横に振る。

「ノンノン、うちは小学六年だよ~? 未桜って呼び捨てで十分だからさ♪」

「あ、はい。其の、川北さんのお姉さんと老人ホームで被害に遭われた方々をどうか探してあげて下さいね」

 そうか。真実の人格では少なくとも未桜は刑事って事に成っているのだった。

「だいじょーぶ! この一件はちゃんと上に報告して、皆を弔ってあげるから~」

「ほ、本当に小六なんすか?」

「少なくとも小川よりは頭良いんじゃない?」

「江連とは仲良く出来そうに無いっすね」

 笑う斑鳩と未桜。だけど俺は探偵染みた事をして八月のロジックの舞台をぶち壊したのだ、此の侭相手が見逃してくれるとは思えなかった。いつか……又、俺は八月のロジックに招待される様な気がしていた。マリアにも未だ謎が多い、母さんや姉さんは殺人カルト教団を潰す為に戦って居るのだろうか。暗い面持ちを見せない為に一人で船首まで片腕を伸ばしてやって来ると、LINEの通知音が鳴った。

「斑鳩から……『貴方も既に傍観者じゃない』か」

 俺は視線を感じて船首から甲板二階のデッキへと顔を向けた。其処には長いブロンドの髪を風に遊ばせて俺を見る斑鳩の姿があった。


 之が二重人格の斑鳩と俺の初の殺人解体だった……。



 ▽あとがき▽

 初めましての方もお久しぶりの方も、いつもご愛読ありがとう御座います。今回ミステリー推理小説という形で書かせて頂きました。いや、ストーリーラインの構成が兎に角大変で、この後に続く話で回収したり、何かが起きる展開は色々と待っております。ただ今回はここで一区切りと言う形です。mother・brainと言い八月のロジックとか風呂敷を広げたんで、奥深い小説になるといいなあっという勝手な願望と共にライブ感覚で書き上げております。同日に天然聖剣と冥界の王も一節目が完結し、こちらはどちらかと言うと不得意なカテゴリーで書かせて頂いております。だけどこれが書いていて楽しいんですよねw ストーリーテラーとして出来る限りの事はして、出来る限りのエンターテイメントを書き上げられたらなっと思っています。ただ最終巻短くね? っと思われた方もいるでしょう。自分の書き方の問題でもあるんですが、エピローグとか最終章ってストンって落としたいんですよね。次に続くのは近況ノートでも言っていた通り『二重人格の彼女と俺の殺人解体mother・brain邂逅編』となります。ここで一旦整理したいとおもっていて、八月のロジックとは? とかmother・brainって結局なに? とかそんな疑問を解決する編となる、といいなあっと考えてます。後は基本難しい漢字とか使ったりするんですが、フリガナは今後も振りませんw 斑鳩真実って『いかるがまみ』って読むんですが、読めない方もいたかなあっと思います。なんで今後も盛りだくさんの構成を楽しんでもらえたらなっと思って執筆しております。


 最後に、変わらぬご愛読ありがとう御座います。又ここから読み始めたって方も是非一巻から読んで頂きたく思います、でわ、次の節でお会いしましょう。校閲は妻が担当しております。°˖☆◝(⁰▿⁰)◜☆˖°



 第八巻 壊れた操り人形編 完結


 第九巻へ続く。

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二重人格の彼女と俺の殺人解体 こみかるんch @komikarun

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