確かな生への実感が、人々を救いの灯りへと駆り立てる。

『僕はあの日、スカイツリーに登った。』

これは引用させて頂いた冒頭の一文。
これによりぼやけていた視界が鮮明になる感覚が忘れられません。


大雨に見舞われて水没する東京。
水面に顔を出すスカイツリーの様子がありありと頭に浮かびます。

もちろんそんな状況にあったことはありません。

水槽の中のように、水の中を泳ぐ魚たち。
その美しい描写から、一転して食糧難から気力を無くしていく人々の描写。

どこかふわりとした幻想的で綺麗な設定から、ぐわりと現実に引き戻される感じが、

この世界へのチケットになっているようです。



そして、明かされるこの大雨の正体と彼らの結末。

人間の優しさと強欲さ。

危機的状況を目の前にして顕になるのは二つの本質。

634mの高さからいつも人々を見ている彼だからこそ、ここがその場所なのかもしれない。

素晴らしい作品をありがとうございました。