中学生
※※※※
桜が舞い散る入学式。
匠馬は中学生になった。
小学校からの持ち上がりが多いので、たいしてメンツは変わらない。しかし、他の小学校からも集まっているので、新しい出会いに胸は高鳴る。
まあでも少し寂しいのは事実だ。
岳は受験して他の中学に行ったし、……それにブドウは……。
「匠馬くーん!!」
向こうから呼びかけられて振り向くと、つい匠馬はゲッという顔になった。
「桃香さん、別な中学校受験したんじゃねえの?」
「え?受験?ないない。お兄ちゃんは受験したんだけど、大学附属の中学ってマジで宿題多くて死んでるみたいだからさ、私はしないことに決めてたんだ!」
「なのに塾行ってたの?」
「塾行ってる子が皆受験するわけないでしょ」
桃香の言葉に、匠馬はそういうもんなのか?と首を傾げる。クイズは好きだが勉強は別に好きじゃない匠馬にとっては未知の世界だ。
「そんな事より!私、中学生になったら自分で部活作るって決めてたんだ。匠馬くんもメンバーだからね」
「はあ!?」
匠馬は変な声が出た。
「おいっ、勝手に決めんなよ」
「えー、内容見てもそんな事言えちゃう〜?」
桃香はニヤリと笑うと、じゃーん、と小冊子にまとめた計画書を取り出した。
「な、何!?『クイズ研究会』……!」
「へへー、部活でもクイズやりたくない?」
「うう……や、やりたい……」
匠馬は、抗うことができず、悔しそうに頷いだ。
桃香は嬉しそうに続ける。
「もうね、何人か友達にも声かけてるんだ。あ、そうそう匠馬くん、絶対ブドウちゃんも誘ってね!」
「……あ、それは無理なんだ」
匠馬は、ボソリと言った。
桃香はぽかんとした。
「え?もしかしてブドウちゃんって他の中学行ったの!?えー!うそー!ショックー!」
「いや、その」
匠馬は言い淀んだ。
〜〜〜
小学校の卒業式の日、小百合さんに会って言われたのだ。
「匠馬くんにはお世話になったね」
「いえ、こちらこそ。ブドウ、中学校は俺たちと同じところですよね?」
「うーん」
小百合さんは、遠くで友達に囲まれているブドウを見ながら困ったように言った。
「ブドウ、中学校行けないかもしれない」
「え?」
「一応、ロボットだからね。ブドウの身体は成長しないのよ。中学生でも小学生と姿形が全く変わらないのは不自然でしょう。人間の成長みたいにちょっとずつ変えていければいいんだけど、そんな技術とお金は無くてね」
「そう、なんですか」
匠馬は、ぼんやりとブドウを見つめる。
友達とはしゃぐブドウは、ごく普通の女の子のようだが、やっぱりロボットなんだ、と実感してしまう。
そうか、ブドウは中学生にならないのか。
〜〜〜
「ブドウは、ここにいないんだよ」
匠馬は、まるで自分に言い聞かせるように言った。
「いるけど」
後ろからそんな声がして振り向く。匠馬は目を丸くした。
「ブドウ!?」
「ブドウちゃーん!なんだ、いるじゃん!」
桃香はブドウに抱きついた。
「制服似合ってるよ。え?てかちょっと見ないうちに随分と大人っぽくなったね!!」
「大人っぽくなったっていうか……」
匠馬は啞然として、突然現れたブドウをまじまじとみつめた。
明らかに、前のブドウより背は伸び、顔立ちも少し大人びている。
ブドウはドヤ顔で胸を張った。
「友達にも、春休み中随分と成長したね、すごい成長期だねって言われたよ」
「成長期でごまかせるレベルなのか?これ」
匠馬は小さい声で呆れながら呟いた。
「これ、小百合さんがやったの?」
「うん、私も皆みたいに中学生になりたいって言ったら、色々考えてくれてね。結局、少しづつ成長させることは難しいから一気に成長させちゃえって言ってこうなった」
適当すぎるだろ、と匠馬は呆れた。
「ねね、ところでさ、ブドウちゃんも、私達のつくる新しい部活入るよね?」
桃香の言葉に、ブドウは「新しい部活?」と首を傾げた。
「そう!じゃーん!クイズ研究会!ブドウちゃんもやろうよ!」
「うーん、私、やめておく」
「えっ!!」
あっさりと断られて、桃香はショックを隠しきれない顔になった。
匠馬も、ブドウが断るのは意外だったので驚いた。何でもチャレンジしてみるようにプログラムされてるんじゃなかったっけ?
ブドウはケロッとした顔で言った。
「私、部活はやった事がないのにチャレンジするの。初めてのものにチャレンジするの。クイズを部活にするのは今回はやめておく」
随分とドライな回答に、匠馬は苦笑いしてしまった。
一応、匠馬はブドウにきいてみた。
「ブドウ、クイズしてた時、楽しくなかった?」
「楽しかったよ」
即答なのが嬉しい。ブドウは続けた。
「だからね、もっと楽しいことがあるかもしれないでしょ。だから私は別な部活に入るの。色んな事を体験するの。そして色んな事を色んな目で見たら……」
そこで言葉をとめて、ブドウは匠馬をみつめた。
「それが全部、クイズに繋がるかもしれない、でしょ?人生の伏線、作っていくの」
「何で、それ……」
それは、匠馬が以前に言った言葉だった。
匠馬の事は一度忘れてしまっていたはずなのに。
なぜそれを知っているのか。
「えっと、何だろうね。この言葉」
ブドウは小さく笑った。
「じゃあ!いっぱい経験したら、絶対入ってよ!クイズ研究会!」
桃香が勢いよく言うと、ブドウはもちろん、と頷いた。
入学式の始まりアナウンスが鳴り響いた。
そうか、ブドウは人生の伏線を作るのか。負けてられないな、と匠馬はブドウと一緒に一歩を踏み出した。
End
忘れん坊AIに、クイズはできるのか? りりぃこ @ririiko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
小説のアドバイス/りりぃこ
★8 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます