鎌倉を舞台に、繊細な筆致で描かれる、禍々しくも美しい愛と生の物語。

  • ★★★ Excellent!!!

■【あらすじ】
呪術を生業とする巫女の家系である九暁家。
その別宅がある朝、全焼した。
焼け跡からは三体の焼死体が発見される。
死因ははっきりせず、奇妙な点があった。

鎌倉警察署の加瀬巡査長は、
神奈川県警の三賀警視に呼ばれ、本署に出向。

ともに事件を追い始めるのだったが……?

■【おすすめポイント】
(1)圧倒的禍々しさ
本作品に興味を持たれた方は、兎にも角にも、まずは序章を御覧になることをおすすめします。

物語は、得体のしれない“何か”が産まれるところから始まります。

産まれようと、あるいは、産まれ“させ”られようとする命と。
それを産もうとする命と。
そして、それを産ませようとする者達と。
ある種のせめぎ合いのようなもの。

凄絶なその様を、圧倒的な筆力で、描き出しています。

読み手は、
「ここから一体、何が始まるのだろう」と。
ぐっと物語世界に引き込まれてしまうことでしょう。圧巻です。
夕暮れ時から始まるのも、象徴的ですね。

(2)いかに九暁家の鉄壁の守りに風穴を開けるか?
ここで展開される事件に取り組んで行くことになる、
加瀬と三賀は、それぞれ九暁家との因縁があります。
それは一体、どのようなものか? 

そして彼らは、
様々な権威をバックに持つ九暁家を相手に、いかにその守りを突き崩していくのか。
これは、そこへ至る執念の物語でもあり、見所の一つです。

(3)愛の物語
恐ろしい怨念が渦巻く舞台を背景に、本作品では、様々な愛の物語が展開されます。

怨念を抱えた御子を孕んだ紫緒を世話する宜綺の、紫緒への透明ながら直向きな眼差し。
検視官として捜査をサポートする藤島が、友人でもある三賀に向ける思い。
九暁家の檻の中で生まれたが故、戸籍もなく、学も無く、外の世界も知らず、九曉家に縛り付けられた同士である宜綺と彭爺との間に流れる、無骨で不器用ながらも確かな絆……。

落ちる陰が濃く深いが故、様々な情や愛から紡ぎ出される物語が、ひとしずくの水滴のように、静かに、時に激しく波紋を描いて、心を揺さぶり、染み入ってきます。

■【こんな方向け】
☑ホラー✕ミステリーが好きな方
☑厚みのある人間ドラマが読みたい方
☑様々なかたちの愛の物語を楽しみたい方

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