最終話 並行世界の可能性たちへ

 我が家の中庭、その上空に――に似た、が現れて。

 ハッチが開かれるや、これまたが――言った。


『フム、どうやらここは、様子……ロジカルに考えて、してしまったか』


 私のと思しき人物が、そんなことを呟いた直後――どうやら事態は、それだけにとどまらぬことを知る。


 嗚呼、何ということだろう、上空に現れたのは―――たった一台ではない、それこそ現れたのだ。しかも中には明らかに文化形成の違うもの、マシンですらないものまで存在するではないか!


『フーム、やはり勢い任せで適当に座標を選ぶモノではないな。ラジカルである』


『何と、次元跳躍に成功するとは……会心の発明、クリティカルである!』


『精霊の導きにより、まさか並行世界へ跳躍するとは……エレメンタルであるな』


 嗚呼、嗚呼―――なるほど。

 世界は、些細な選択の違いによって枝分かれし、を形作る。


 、だ。

〝元の世界に帰れなかった私〟や。

〝全く別のアプローチで、同様の発明を生み出してしまった私〟も。


 無数に存在し、それが私のいる世界に跳躍してきたとて、おかしくはあるまい。

〝魔法の世界〟に、私が跳躍したように。


 それにしても、〝同一世界の自分の可能性〟とは、随分と多岐たきに渡り――中には、そもそもの前提にが見て取れる存在もある。


『フム、フム……別世界の私には、のであるな。まあ性別が何にせよ、私は天才に違いない、というワケであるな!』


『フーム、我が愛するの元へ帰るには、もう少し工夫が必要か……まあ良い、ロジカルに次の手立てを考えるとしよう』


『フム? そちらの世界の私の伴侶は、男性なのか……まあ性別など、愛の前には些細な問題。であるのも、存外、悪くないであるぞ♪』


 クイッ、と眼鏡を指先で上げ、白衣を纏うスタイルは、、変わらないようである。


 ……いや、それにしても、随分と風変わりな私も存在するようだが。


『フーム! 私のシャウトが、まさか次元の壁すら突破しようとは! ここが私の新ステージか! ならばこそ、私の歌を聴くが良い―――!!』


『フ、フムぅ……? 小説を書いていただけなのに、なぜか並行世界に跳んじゃいましたぁ……はう、リリカルですぅ……』


『フム? 神の一品が完成したかと思いきや、いきなり目の前の空間がひび割れて、こんな所へ飛ばされるとは……も、なかなか大変である』


『我が拳、鍛えに鍛え抜いた結果、次元の壁を貫いたわ。マッスルである』


 我がロジカルな目をも疑いたくなる、なかなかの事態に。


 果たして、愛する妻・エミリィが、愛猫・ルビィを抱きながら言ったのは。


「あら、あら~? ルークさんに似たお客様が、こんなにたくさん……たくさん紅茶の準備をしなくちゃいけませんわ~♪」


「ウニャニャ……なんなんニャ」


 全く動じない、我が愛する妻、さすがである。ルビィは、鳴き声を――鳴き声を! 軽く漏らしているが。


 さて、最後にもう一つだけ。


 中庭の中央に―――巨大なが現れ、直後。



『―――きゃあーっ! くっ、殺せぇー! ……ハッ!? あれっ、まさかルーク様……お、お久しぶりです、三年ぶりですわねっ♪』


『フム、光と闇を融合する魔術を研究した結果、魔力が大暴走し、まさか次元跳躍を果たそうとは……何たる奇跡、まさにマジカルであるな』


『ニャーーーッ! クッソまた変なことに巻き込まれたニャ! チックショー! 特別手当を要求するニャアアア!』



〟の面々にとっては、三年後の出来事らしいが――私にとっては、何とも短い別れからの、再会である。



 ……運命、及び、というものが存在するならば。

 なるほど、私が二十一歳で『パラレル・ワールド間の移動を成す』というならば。


 別世界の私とて、同じようなタイミングで―――同様に、別世界へ飛ばされる、ということも起こりうる訳だ。


 全く、何というべきか、本当に―――



「フム、全く、パラレル・ワールドというのは―――

 嗚呼、何ともロジカルに、面白いモノである―――!」




 ―――さて、お次は、別々の世界の私同士、知恵を絞り。


〝別の世界の私を、元の世界に返す研究〟でも、行うとしようか―――




 ―― End ――

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パラレル・ワールド ~嗚呼、なんてロジカルな魔法の世界!~ 初美陽一 @hatsumi_youichi

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