第20話 おかえりなさい
ドオン、と落雷のような大きな音が、響いた後。
マシンの外側の景色は、どうやら、どこかの世界に辿り着いたようで。
……果たして、ここが私の元いた世界なのか、どうか。
マシンのハッチを開き、確認すると――
「……フム」
私専用の研究ラボ、に繋がるよう併設された、大型ガレージ。
外へ出れば、中庭に―――我が家の、中庭に、出られる。
嗚呼、間違いない。
「……フム、帰ってこれたようであるな」
軽く振り返り、ガレージの高い場所に取り付けた、大型のデジタル時計を見ると。
時刻は正午―――そして、パラレル・ワールドに跳躍する前と、同じ日付が表示されていた。
「やはり、そうであるか」
私の年齢が二十一歳。
並行世界の同一人物である、エメリナ姫やルーンの年齢が十八歳。
この三年差の秘密は。
やれやれ、どうやら当初の目的であった〝タイムマシン〟の機能も、少しは備わっていた、ということらしい。
おかげで、時間差現象――いわゆるリップ・ヴァン・ウィンクル効果(※ウラシマ効果のようなもの)にならず、済んだという訳だ。
怪我の功名であるし、やはり私は天才であるな、余計な機能付きではあるが。
ふう、と一安心し、ため息を吐いていた―――その時。
「――――あなた? 今、大きな音がしましたけれど、どうかなさいました?」
―――――――――――。
―――――――――嗚呼。
何とも、私は、ロジカルではなく。
「――――エミリィ」
「きゃっ?」
愛する妻を、ほとんど反射的に、抱きしめて。
私は一言、告げた。
「ただいま」
ロジカルに考えて、妻からすれば、訳が分からない言葉だろう。
彼女にとって私と離れていたのは、朝食を共にしてから、私がラボとガレージに籠った後の、数時間程度なのだから。
けれど、彼女は、そんな私に。
「――――おかえりなさい」
そう言って、微笑んでくれた。
嗚呼、そうだ、この笑顔が出迎えてくれるなら、私はどんな異世界に、異次元に放り込まれようと、何度だって帰ってくるだろう。
そんなことを考えていた私の足に、すり、と擦りついてくる感触が一つ。
「………にゃぁん♪」
「ム。……フッ、ルビィか。全く、おまえのイタズラのせいで、大変な冒険をさせられたものだ。……おまえ、何かツッコんだりしていないだろうな?」
「なぁん? ウニャ、ニャニャン」
「フーム。何か喋っているような気が、しなくもないである……」
これは猫語・翻訳アプリを、張り切って開発すべきか。幸い、異世界・翻訳アプリのおかげで、同一存在たる猫メイドのデータはバッチリあるし。
さて再度、考え込む私に、愛する妻・エミリィが語りかけてきた。
「あら、あなた……大変な冒険って、何かしら?」
「フム? フム……それは」
〝魔法の世界〟に行って、私やキミの同一人物と出会い、冒険のようなことをしてきたのだ――などと、言えば。
キミは、信じてくれるだろうか?
……愚問である。
きっと、微笑みながら、聞いてくれるであろうさ!
「フム、そうだな。長い話になるが、聞いてくれるか、エミリィ」
「あら、もちろんですわ♪ じゃあティータイムにしましょう。ゆっくり、のんびりと……聞かせてくださいね、あなた♪」
「フフ、そうであるな。……さあ、何から話すか。まずは――」
―――こうして、私は。
私にとっては長く感じた、〝魔法の世界〟での大冒険を
愛する我が妻・エミリィの元へと、戻ってきた。
茫洋として、包み込むような、暖かな笑みを、見つめながら。
あの、随分と密度の濃い、〝魔法の世界〟での出来事を話すとしよう。
これにて、大団円。
ハッピーエンドである――――
―――――とは、嗚呼、どうやら、いかないようで。
「―――あら? あら、あら?」
「ニャン?」
急に、辺りが薄暗くなる。
雲でも出てきたのか、と思いきや。
それは、雲ではなかった。
私は、ゆっくりと顔を上げて。
「フム。……ああ、そうか……」
まるでパラレル・ワールドに飛んだ時のように、そうは見えないかもしれないが、驚いて。
「そういうコトも、あるのか」
私は、ぽつり、呟いた。
―――空に、現れたのは。
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