第19話 次元の狭間にて

 密封されたマシンの、外側の風景は。

 上も下も無く、奥行きさえ感じさせない、空気があるかも定かでない――色彩すらも安定しない、異様な空間。


 世界と世界の隙間―――〝次元の狭間〟といったところだろうか。


 なるほど、無数に枝分かれした世界同士の間は、こうなっているのであるな。が、これはまだ想定の範囲内。問題は、ここからだ。


「さて―――私の〝元いた世界〟の座標は、何処であろうか」


 些細な選択で分岐する世界、無限とまではいかぬも、無数に存在しうる並行世界。

 一応の限りはあるが、数え上げればキリがない膨大さ――まるで〝闇の魔法〟であるな、と私は苦笑して。


 まるでのように〝魔法の世界〟へ飛ばされたのとは違い、今度は無数の中から、何の手がかりも無しに、たった一つを選択せねばならない。


「……、本当に、?」


 愛する妻の同一人物、私の同一人物、飼い猫の同一人物……は、確定ではないが。


 これが、偶然でないのだ、とすれば。


 選択肢を、潰してゆけ。


 パターンを、絞れ。


 あと一つ、何か、何でもいい、手掛かりがあれば。



 ――――ロジカルに、考えろ。



 …………。

 ………………。

 ……………………。

 …………………………!


「嗚呼……そうか」


 私は、白衣のポケットから、それを取り出した。


を……私は、のだな」


 まさか、エメリナ姫が、そんなことを予測していた訳では、なかろうが。


 運命という言葉も、ロジカルではないなどと、バカにはできないものだ。


 そんなことを考えながら、私は―――姫から受け取った魔法銀の指輪を、眺めた。



「私の妻も―――似たような指輪を、持っていた」



 私との結婚指輪とは別に、確か母の形見だと言っていた、指輪を。


 因果というものが、存在するならば。


 この指輪が、しるべとなり、繋いでくれるであろう。


 異なる世界同士を繋ぐ、えにしのように、道として。


「さあ、今こそ、帰還しよう」


 マシンの操作パネルに、プログラムを入力し、私は今度こそ。



「私の世界に―――私の、愛する妻の元に」



 次元を、跳躍した。


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