五巡り 村東通也
(ネットニュースより)『立体駐車場からの転落事故 日曜の商店街通行人あわや』
4日午後4時ごろ、Y市O町の立体駐車場イサキヤパーキングで、5階から自動車が転落したと通報があった。後部座席に乗っていた職業不詳男性(37)が死亡。運転者は脱出して無事だった。目撃情報から自動車はバックのままフェンスを突き破り、約13メートル下の市道に落下したとみられ、警察が事故原因を調べており……
顔見知りの従業員にチップを握らせ、
(まあ、ギャラと証拠写真が入った封筒を見ればそんな気も失せるだろうがな……)
機材を別働隊に任せて、村東通也は近くの立体駐車場に止めた自分のRV車に乗り込む。後部座席でスマホを手に取り、飯のタネの援交サイトを漁る。そのときふと村東の頭を告発掲示板のことがよぎった。
その手紙にあったパスワードを入力すると、サイトのトップに村東通也の罪状が表示された。
『村東通也、37歳。K県K市を根城にするAV監督。援交で出会った女性に酒や薬を飲ませ昏睡レイプの実況撮影をする悪人。被害女性は30人以上と思われる。過去に性犯罪での逮捕歴あり。暴力団との繋がりも……』
(【死ニ刻参り・ドウドウ巡り】だったか? ふん、恨まれるのは承知の上でこんな商売やってんだよ!)
「ハッタリだ」となかば強引にそれを打ち消して村東通也は運転手が来るのを待つ。
「遅くなりました、監督」
謝りながらRV車の運転席に
「ヤギ~、外では社長って呼べって言ってるだろ。ワザとか?」
「すいません、社長。ついうっかり……」
そのとき村東のスマホに電話が掛かってくる。「もしもし?」と出てみればそれは呪文だった。
『しにこくまいりまいらせたもう、どうどうめぐりめぐらせたもう……』
その声はやがて節をつけて歌い出す。
『どうどうめぐり~どうどうめぐり~』
「な、何なんだこいつぁ!」村東はスマホを放り出して、高柳に「早く車を出せ」と命令する。大排気量のエンジン音が駐車場に響く。しかし動き出した途端に高柳が急ブレーキを踏む。
「おい、ヤギ!」村東の怒声に「すいません、いま車の前に人が……」と高柳が言い訳をする。
「どこにいんだよそんなヤツ!」
「い、いましたよ! グレーのパーカーでフード被って……えっ?」
言いながら高柳和都志がぶるぶると震え出す。
「あいつ……あいつ佳華ですよ」
「馬鹿言うな! 『よしか』は死んだだろうが!」
しかし去年に芦川佳華は飲酒運転の暴走車にひき逃げされて死んでいた。
村東が放り出したスマホから小さく呪歌が流れ続ける。
『どうどうめぐり~どうどうめぐり~どうどうめぐり~どうどうめぐり~』
そのとき高柳は車のボンネットにぺたりと手が置かれるのを見た。そしてフードを被った少女の上半身が現れずるずると身体を這わせてくる。その口からスマホと同じ呪歌が聞こえてくる。
『どうどうめぐり~どうどうめぐり~』
「ひっ……ひ……ひいいやぁ!」
高柳が反射的にアクセルを踏み込む。ギヤがバックに入っていたRV車はそのまま勢いよくフェンスを破り、車は後ろ半分を中空に突きだして止まる。
「な何やってんだヤギお前ぇ! い、いいから落ち着け! ギヤを前に入れろ!」
「だって、よ佳華が……社長! 社長には見えないんですか?」
「当たり前だろうが! お前の妄想に俺を巻き込むんじゃねぇよ!」
「そ、そんな……社ちょ、ひっ!」
顔を歪ませてミラー越しに村東を見た高柳が息を詰まらせる。村東通也の隣に芦川佳華が座っているのが見えたからだ。
『……かずとし……』
「うわああああ!」
自分の名前を呼ばれ、高柳和都志は半狂乱になってシートベルトを外す。
「は? おい何してんだ! 戻れ馬鹿野郎! そんなことをしたら……」
村東の制止を振り切って高柳はドアを開けて車から逃げ出した。バランスを保てなくなった車が地上目がけて落ちていく。
絶望の叫びをあげる村東通也の耳元で誰かが囁いた。
「どうどうめぐり……かっちんこ」
シニコク~巡狂変 桜盛鉄理/クロモリ440 @kuromori4400
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