第4話 生かすか殺すか
「うーん……そこは工場も使えるだろうから、数人だけ人間残して、後は消しちゃって良いよ。まあ臨機応変に対応して欲しいけど、基本はその方向性で」
「かしこまりました」
開拓担当の大臣が、紙にペンを走らせた。
「では、次に、シェーンの街についてですが……」
「あそこ何かあったっけ?」
「いえ、これと言ったものはありません」
「ふうん……じゃあ、人間消して、占領しようか」
「はい」
そう言って、大臣がペンにインクを漬け、今にも紙にその旨を書こうとしているのを、私はやんわり止めた。
「ちょっと、待っていただけますか?」
「? シルビア様?」
「魔王様。シェーンの街は、スイーツで有名であることで知られています。最近魔王様がお気に入りのケーキもたくさんありますよ」
「はっ! そうだよ、スイーツ! 忘れてた!!」
真剣な顔をしているが、目は乙女の様にきらっきらだった。貴方、チョロいって言われません?
「先ほど言った通り、シェーンの街はスイーツで有名です。特にそこは、一部を除いて、人間が作るケーキが非常に美味しいと、我々魔族の間でも人気です。もしそこの人間を全員消したら、それらのケーキが食べられなくなりますが……」
「……うーん……ケーキ……」
……あれ、もしかして、もうケーキのことしか頭に入ってない? 魔王様ー? お気を確かに?
「しかし、シルビア様……それだと人間達の反逆が起こるかもしれませんよ? よろしいのですか?」
「私としては、城専属の調理人として新たに加えるのも一つ手だと思っています。その職人だけ残せば良いだけですしね。まあ、後は魔王様のご判断となりますが……」
ちら、と魔王様を見ると、思っていたよりも真剣な顔をして考えていた。スイーツの事となると、目がないですね、貴方……。
「ううん……城の専属にするのが良いんだろうけど、人間が入ってくるのはあんまり皆望んでないよねえ……かと言って、そのまま生かすのもあれだし。生かすか殺すかだなあ」
「し、しかし魔王様……お言葉ですが、シェーンの街のスイーツは……」
「ああ……知ってるよ。というか、シルビアも分かってて言ったでしょ」
「はい。そちらの件も踏まえてお考えいただければと思いまして」
そういうと、魔王様は深くため息をついた。
「……じゃあ、その職人にその件の罪を償ってもらうついでに、ケーキ作ってもらうか」
「で、では……シェーンの街は例の店の職人以外は……」
「あ、消しちゃって良いよ」
「かしこまりました……」
ぎこちなくペンを走らせる大臣を横目に、魔王様はぼそっと呟いた。
「どういうつもりだったのか、聞かせてもらわなきゃね。────魔物を使ったスイーツを作るなんてさ」
その顔と声色は────まさに『魔王』といったものだった。
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