第6話 『家族』とぱじゃまぱーてぃーを
「我も小娘のように、『ぱじゃまぱーてぃー』とやらをしてみたい……っ!」
目眩がした。
魔王様、久々に真剣な表情で話し始めたと思ったら、それですか。いや突拍子も無いことを仰るのは今に始まったことじゃないですけど。それですか。
「だってだって、最近の小娘って、何か夜もおしゃんな格好して、きゃっきゃっうふふするんでしょ!? 我もそんな風に若さを味わってみたいよ……」
「……若さと仰っている時点で、もうそんなに若くないのでは───」
「何か言ったか」
「いえ何も」
この前のパティシエに対するような雰囲気で圧をかけてきた。怖いです魔王様。
「とーにーかーくー!! 我もぱじゃまぱーてぃーしたい! というわけで、今夜早速やろう。さ、シルビ」
「おっとっと、頭が頭痛、腰が腰痛……申し訳ありません、今夜は仮病を使う予定が」
「シルビア誤魔化さないで。私達の関係って、そんなものだったの……!?」
「誰ですか。そして魔王様とそんな複雑な関係になったつもりはありません」
魔王様は、さも恋愛小説に出てくる登場人物のように、悲痛な叫びをした。彼の尊厳のためにも、何も聞かなかったことにしておこう。
「……で。魔王様と私はいるとしても、あとどなたをお呼びするつもりですか? 言っておきますが、二人きりは流石に嫌ですよ」
「いや、流石に我も野郎と二人きりは嫌だよ。せめて三人……」
うーん、と考え込む魔王様。……野郎とパジャマパーティーするのは良いんですね。
「あ! あのパティシ───」
「止めてください」
「ええ、じゃあ、あと我が話せるやつと言えば───あ!」
パチン、と指を鳴らした。
「────団長はどう!?」
◆◇◆◇
「……して、私めが呼ばれた訳ですか」
「すみません、ロン。魔王様が聞かなくて……」
「いえ、お気になさらず。お呼びいただけて光栄です。……しかし、本当に我々三人だけで良かったのですか?」
「いや、我こみゅしょうだから。あんまり人が多すぎると話せないんだよね。三人が限界」
「こ、こみゅ……?」
「お気になさらず、ロン。外の世界の知識を持ってきているだけですから」
「左様ございますか」
何だか不思議そうな顔をして、獣人族特有の耳をぴくぴくとさせていたが、まあとりあえずそれは置いておいて。
「よし、それじゃあ早速、ぱじゃまぱーてぃー……スタート! 乾杯!」
「乾杯」
「……乾杯」
「ちょっと、ノリ悪くな~い? もっと盛り上げてこ~?」
「魔王様、その話し方止めてください。仮病の予定が、本当の病気になりそうです」
「な、なんて不敬な……」
魔王様は、ひどくショックを受けたような顔をしている。いや、ショック受けてるのこっちなので。頭痛が酷い。あと胃痛。
「私めは、魔王様のそんな感じも楽しくて好きですよ」
「団長~!! やっぱりお前は良い奴だ……給料アップ!」
「ロ、ロン……お前、私を裏切ったな」
「へっへっへっ、日頃の行いの差だよ!!」
そう魔王様は悪ガキの様に言い放った。貴方に言ってません。
そんな私達の様子を、ロンは微笑ましそうに見ている。……保護者かお前は。
長くなりそうな夜に、余計頭が痛くなった。
◆◇◆◇
「……寝てしまいましたね」
「……ようやく寝ましたね」
「ようやくって……赤ちゃんでもあるまいし」
「大きい赤ん坊ですよこの方は……本っ当、私がここに来た時からいつもいつも……」
「……ふふ」
ロンを見ると、心底面白そうに笑っていた。
「何が面白い」
「いえ。ただ、魔王様もシルビア様も、楽しそうだなと」
「嫌みですか?」
「いえ、そんなものではなく」
そういうと、嬉しそうに尻尾と耳を動かしながら微笑んだ。
「ただ、お互いがお互いを信頼しているな、と。主と従属の関係で、ここまで言い合えるのは、本当に良いことなのですよ」
「……」
彼の言葉は、彼を知る人が聞けば、とても重く聞こえる。
獣人は、使用人や、奴隷として扱われることが多い。彼の一人目の主は、比較的穏やかな人間だったそうだが────二人目の主は、それはそれは、酷い扱いを彼にしていたらしい。
そんな彼にとって、軽口まで叩ける仲と言うのは、羨ましいものなのだろう。
「……それはそうですが。ロン、貴方は一つ勘違いをしていますよ」
「……勘違い?」
少し不思議そうに首を傾げる。軍隊の時と違って、穏やかでどことなく可愛らしい雰囲気を醸し出す彼に、自然と微笑んでしまう。
「……魔王様は、私を、いえ、私達のことを『従属』だと思っていませんよ」
はっ、とロンは目を開いた。しかし、そこで話し始める訳でもなく、そのまま私の話を聞き続けた。
「確かに、契約上は従属であるかもしれませんが……魔王様は、私達を『家族』だと思ってくださっています。それは恐らく、彼が『家族』を知らない故の、寂しさを埋めるためであるのも、理由ではあると思いますが。きっと、それよりも深い、大切な何かを感じ取ってくださっています」
「……かぞく」
そう呟くと、嬉しそうに表情を緩ませて、尻尾を揺らした。
「……『家族』」
また、同じことを繰り返した。
だが、その声色には、幸せを噛み締めるような、そんな感情がこもっていた。
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