第7話 ドッキリ大成功……?

「久しいな、魔王」


「ああ」


「お久しぶりでございます、黄泉姫様」


「おお、シルビア。久しいな」


 彼女はそういうと、猫のような金色の目を細めて微笑んだ。


 黄泉姫様は、魔王様の旧友であり、死者が集う世界、「黄泉の国」の管轄者でもある。見た目こそまだ幼い少女のようだが、その実、考えが読めず、どっかの魔王様よりもよっぽど大人びた方だ。


 唯一の欠点とすれば、手合わせをした時、こちらの魂を刈ろうとせんばかりに大鎌を振り回してくることだろうか……。


「そなたたちのせいで、ここ最近、人間の魂がわんさか来るんだ。全く困ったものだよ」


「とは言っても、実際に姫が死者を選別するわけでは無いだろう?」


「まあそうだが、それにしてもだ」


 黄泉姫様はどこからともなく扇を出し、それをゆらゆらと扇ぎ始める。


「まあ、そなたたちの成果ということで多めに見てやろう。だがあまり多すぎてもこっちの仕事が増える。ほどほどにしてくれ」


「善処しよう」


 魔王様は静かに答えると、突然こっちを振り向いた。


「うわ、何ですか」


「しっ! 声が大きい!」


「いやいや、貴方の声の方が大きいのですが、それは」


 そんな私の声を無視して、私をぐいぐいと扉の方へ押しやった。なんだなんだ、本当に何だよこの人。


「なんです?」


「なんです? じゃないよ! どういうこと!? 姫ってば、全然驚いてくれないんだけど!」


「ああ……」


「興味な! さっきまであんなにノリノリだったのに……」


「別にノリノリでは無かったですけどね?」


 魔王様は悔しそうに顔を歪め、拳を握った。お願いですからその拳で私のこと殴らないでくださいね? 死ぬんで。


 ……さて。魔王様がこんなに悔しがっているのには、一つの理由があった。


 ◆◆◆◆


「というわけで、姫にドッキリを仕掛けたいと思います! 拍手!」


「わー」


「うんうん、シルビアもノリノリで我は嬉しい!」


 このテンションをノリノリって、本当ポジティブ頭がおめでたいですね。そう言おうとしたが、止めた。減給されかねん。


 魔王様は機嫌良さそうに、壊滅的な絵……いや、独創的な絵を私に見せてきた。どうやら、今からやるドッキリとやらの全貌らしい。


「ドッキリの内容としては〜、これ! 我は姫と会う時いつもこのテンションだけど、今回は威厳たっぷりの方でいきたいと思います! いつもと違う様子の我に姫は驚くこと間違いなし! タイミングを見て、この看板みたいなやつで、ネタバラシ! どう!? 面白くない!?」


「はい、とてもおもしろいとおもいます」


「だよねー!」


 魔王様は、きゃっきゃっと子供のように笑った。楽しそうですね貴方。


「よーし! ドッキリ成功させるために、頑張るぞー! おおーー!!」


「おー」


 ◆◆◆◆


「はあ……。姫ってば、ぜんぜん気づいてくれない」


「そもそも、魔王様の変化を気にしてない所もあるかと」


「え……だとしたらだいぶショックなんだけど」


 魔王様は顔を青くした。そりゃ貴方、いちいちそんなこと気にしてたら疲れます。


 そんなことを話していると、黄泉姫様がぴしゃりと扇を閉じた。


「ところで友よ。一つ聞きたいことがあるのだが」


「え? なあに姫……ゔっゔん!! ……どうした、言ってみろ」


 つい素が出たのか、魔王様は咳払いをして無理矢理先ほどの調子に戻した。もう遅い気が。


「友よ。そなた、いつもと少し違うようだが……何かあったのか?」


「……!!」


 その言葉を聞いた瞬間、ぱあっと目を輝かせ、私に振り向いた。いや分かりやすすぎだろ。もう少し隠してください。


「……ふむ、そうであろうか。普段と変わらないが」


「おや? そうなのか? ふうむ、久々ともなると忘れてしまうものだなあ」


 そう言って黄泉姫様は微笑んだ。


 ……なんだろう。なんか、もうドッキリはばれている気がする。


「ねえねえシルビア!」


「……はい、なんでございましょう」


「もうドッキリ大成功ー! ってやっていいかな!?」


「……貴方様のお好きにどうぞ」


「じゃあさ、部屋の外に看板あるから、それ取ってきて!」


「……」


 え、面倒くさ……と思っている私の心を知ってから知らずか、魔王様はにこにこ笑顔で黄泉姫様に話しかけた。


「そうだ姫、一つ伝えておかなければならないことがある」


「ほう、改まってどうした?」


「……シルビア」


「かしこまりました」


 まあ、魔王様のおままごとぐらい、付き合うか……。


 そう思いながら、私は看板を魔王様に手渡した。


「……てってれー!! ドッキリ、だーいせーいこーう!! どうどう!? 騙された!?」


「なんだ、そなたがいつもと違うのは、ドッキリだったからなのか! はっはっはっ、これは騙されたな」


「ほんと!? シルビア! 成功だよ! 次の給料上げとくね!」


 きゃっきゃっと喜ぶ魔王様は、相変わらず幼子のようだった。うーん、うるさい……。


 ふと黄泉姫様の方に目を向けると、彼女と目が合った。


 そしてそのまま彼女は、ぐっと親指を立てた。


 ……やっぱり。魔王様、全部ドッキリばれてましたよ。


 そう思ったが、言ったら興醒めするだろうと考え、私は何も言わずに彼女に親指を立て返した。

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自由気ままな魔王様~勇者を倒して世界征服を成し遂げたので、自由気ままに余生を過ごしてみた~ W @ivgz8o-kj

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