第2話 ケーキ作り

「ケーキ、ですか」


「そうだ、ケーキだ」


 料理長は、自分が頼られたのが嬉しいのか、にっこりと微笑んだ。


「かしこまりました。ただいま、お作りいたしま────」


「違う違う、そうじゃない」


「……? と言いますと……」


 魔王様はカッ! と目を見開いた。


「……我が作りたいの……!」


 ◆◆◆◆


「シルビア」


「は、何でございましょう」


「これ、美味しそうじゃない?」


「……ケーキ、でしょうか? 確かに美味しそうですね。お持ちしましょ────」


「我、これ作ってみたい」


「……はい?」


 私は顔を上げた。見ると、魔王様はきらっきらな目で私を見つめていた。


 あー始まった。また始まったよ。最近加速した魔王様の自由気ままな行動が。今度はケーキ作りかい。


「……魔王様。先日も申し上げた通り、それらのものは我々、もしくは人間がお作りいたしま───」


「いやいや、そうじゃない。別にケーキ作りが上手い奴がいるのは分かってるよ。そうじゃなくて、我は趣味でケーキ作りしたいの。分かる?」


「……」


 おい、何かデジャヴを感じるぞ。つい何週間か前もあったような……。


「……はあ、かしこまりました。では、料理長に話してみましょう」


「いや、良いよ。我が直接行く」


「……承知致しました」


 もういいや。何か色々言うのも面倒くさくなってきた。


 ◆◆◆◆


「ま、魔王様が……!?」


「うん、我が」


「い、いけません、そんな、魔王様の手を煩わせるなど……!」


「いや、そうじゃなくて……うーん、何で皆分かってくれないかなあ?」


「そりゃ魔王様がそんなこと言ったら、誰だってそうなりますよ」


 不思議そうに首を傾げる魔王様を見て、何だか頭が痛くなってきた。


「まあとにかく、我、趣味の一環として、ケーキ作りたいの。だから、教えてくれない?」


「……ま、魔王様が仰るのであれば……微力ながら、努力させていただきます」


「ありがとー!」


 何だ、ありがとー! って。最近の小娘みたいじゃないか。相っ変わらず緩いな魔王様。1年前の威厳どこ行った??


「ところで……どのようなケーキをお作りしたいのですか?」


「ふっふっふっ、これを見たまえ料理長。……シルビア、それ頂戴」


「はい」


 籠を魔王様に渡すと、魔王様は自慢げにを料理長に見せた。


「こ、こちらは……」


「これはねえ……我が最近真心込めて育てた、木苺達です!! というわけで、我は木苺のケーキを作ろうと思います!!」


 どやりながら魔王様は仰った。


 料理長はというと、みるみる顔を青ざめさせ……


「……に、庭師は何をしているのですか……!?」


 と今にも倒れそうな勢いで言った。


 ……うん、分かる、分かるよ。料理長。本当にごめんね。


 私は、心の中でそっと謝った。


 ◆◇◆◇


「シルビア、美味しい?」


「……はい、美味しゅうございます」


「ふっふっふっ、我が作ったから当然……」


 と言っていたが、魔王様は自身のケーキを口に運んだ瞬間、不味そうに顔をしかめた。


(……全く。何で失敗したのを自分で食べるか)


「……魔王様。やはり魔王様がしかめっ面でケーキを食べているのは見るに耐えないので、口を付けてしまったものではありますが、こちらの成功品を……」


「失礼だな!? 有難いけど、色々失礼だな!?」


 とか言っておきながら、さりげなく私のケーキとすり替える。子供かあんたは。


「んー……やっぱり、成功品食べる方が良いね。シルビア、大丈夫?」


「大丈夫です。苦味の中に本当にごく僅かしか感じない甘味がちょうど良いです」


「……な、何かごめん」


 黒焦げになったケーキは、とても美味しいとは言えなかったが。


(……まあ、魔王様が満足そうにしてるし、良いか)


 とか何とか思ってしまう私は、魔王様に影響されつつあるのだろう。

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