第3話 シルビアの苦悩

「あのぉ……シルビア様」


「どうなさいましたか?」


「……魔王様って、噂よりもはっちゃけてるような気がするのですが……何かあったのですか?」


「ああ……あの方は昔からそうですよ。って、貴女は勇者が討伐された後に雇われたから、知らないのですね」


「そ、そうなのですか……?」


 獣人族の彼女は、不思議そうに言った。


「はい。昔っから突拍子も無いことを仰いますよ。やれ他の魔族とお茶会したいだの、ファッションショーしたいだの……言われる側の身にもなってほしいですよ、本当」


「そ、そうだったのですね」


 と、意外そうに目を丸めた。


 まあ無理もない。1年前に雇われたとはいえ、魔王様の専属の侍女になったのは、ここ最近のことだ。


 城内でも、清掃や調理など、あまり魔王様と接触する機会の無い者達にとっては、魔王様へのイメージは、実際の彼とはかなり異なっている。


 懐かしいなあ、私もそんな時期あったなあ……絶対的かつ歴代最強と言われた魔王様に憧れを持っていた時期が……。おかしいなあ、確かに強いはずなんだけど、普段の行動からはその様子の欠片も無いなあ……。


「あ、シルビアだ! やっほー!」


「ままま、魔王様!!」


「あれ、最近我についた子じゃん……も、もしや……」


 こそこそっ、と私に近づいてくる。そして、ひそひそと耳打ちをした。


「あ……逢い引き~!?」


「魔王様、昨今の世の中は『せくはら』とやらがあるそうですね。訴えますよ」


「冗談!! 冗談だから!!!」


 魔王様は慌てて弁解をしてきた。そんな魔王様を、彼女はまたも不思議そうに見ていた。


 その姿を見ていると、何だか、昔のことを思い出す。


 ◆◆◆◆


『……お前が新しい我の従者か』


『は。悪魔神のシルビア・デルートと申します。魔王様に救われたこの命、必ずや貴方の為に捧げると誓います』


『……ふむ』


 魔王様は難しそうな顔をして────ため息をついた。


(……もう、呆れられたのか、私は)


『時に、シルビア・デルート。一つ聞くが……』


『はい、何なりと』


 私がそういうと、魔王様は顔をぎゅうっとしかめて────


『……何で我の周りの人、皆そんなに堅いの?』


 と心底寂しそうに言った。


 ◆◆◆◆


 あの後すごく大変だったのは、未だに覚えている。


 やれ見た目だけで怖がられて逃げていくだの、皆お堅いだの、そのせいでぬいぐるみを集めようにも奇異な目で見られるだの……まあ最後は心底どうでも良いが……。


 とにかく、雇用1日目にして、雇い主の愚痴を聞かされる羽目になるという、何とも哀れな目に合ったのだ。本当に可哀想だな、私。


「ねえーシルビア。今度、我、男子会したい」


「お好きにどうぞ」


「えー! シルビアも参加しようよ!」


「遠慮します」


「しょうがない……こうなったら、我が女装して女子会に参加するしか……」


「止めてください」


 本当、癖の強い、自由気ままな魔王様だ。

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