序章 勇者が打ち破れた日

「がはぁっ!?」


「勇者!!」


 膝をついて倒れた勇者に、僧侶らしき人間が駆け寄る。


「勇者、今回復す……」


 ────彼はその瞬間を見逃さず、僧侶の心臓を闇の矢で撃ち抜いた。


「……はっ?」


 どさ、と僧侶が倒れた。


「……! シルフィ……っ!」


 シルフィ、と言ったか、あの僧侶の小娘は。


 なるほど、なかなか良い名だ。その名前が祝福されながら付けられたことぐらいは分かる。


 まあ、彼も同じことを思っているかは分からないが……。


「……楽しかったぞ、勇者」


「……っ、何で……」


 勇者は血を吐きながら叫んだ。


「っ、何で…………何もかもお前達に奪われなきゃいけないんだよぉぉぉぉ!!」


 まさに最後の力を振り絞り────と言ったような感じで、彼に斬りかかった。


 ────ああ、可哀想に。


「なぜ、だと?」


 彼は斬りかかってきた勇者の首根っこを掴んで、囁いた。


「……それは、お前達が先に私達の全てを奪ったからだろう?」


 そう言うと、彼は勇者の首を捻り潰した。


 この日、勇者一行は打ち破れ、彼────魔王は、この世界を統べる唯一無二の存在となった。

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