今宵のダンスの相手は、美女にしますか? ペンギンにしますか?

 会社で散々な目にあった泰己。泣きっ面に蜂とはまさにこのことで。どうせなら、蜂じゃなくて、蜂蜜で会ってくれよと度々思いますが、世の中そんなに甘くありません。(蜂蜜だけに。
 やけ酒……中の人(じゃなかった🐧)は普段お酒を飲まないので、酒でストレス発散とはならないのですが、酒を流し込んで酔うことで落ち着けるなら、それも良いと思います。勿論、泥酔しない範囲で、ですが。
 あーでも、この感覚は分かります……ほろ酔いくらいで夜道歩くと、なんか風が心地よく感じるんですよねぇ……なんなんでしょうねぇあの感覚。なんてことを思っていたら、どこからともなく笛の音が。
 ふむ……こんな巨大な満月が……いや、そんな巨大な満月を背負ってペンギンが踊っている……? ん……泰己の頭も現在進行形で踊っているようですね、と書こうと思いましたが、どうやら現実のよう。一旦踊り終えたペンギンは、ただただ頭を下げる。路上で活動するアーティストのように、喋りもせず、足元にチップを募る籠も置いていない。その真摯な姿勢には、同じ🐧として敬意を表しますよ。誰ですか! 今、「豚に真珠」とか「猫に小判」とか突っ込みを入れようとしたのは! っと話を戻しまして。安心してください、私は素面です。しかし、冷静になって考えてみれば、ここは道路のど真ん中。時間帯を考えても、いつ車が通るとも限りません。せめて、歩道に避けた方が良いのではないかと若干心配になってきました。
 泰己の問いかけに嘴で答え、迷ったものの是非もなしとついていく泰己。遠くに見えた満月が、否遠くといっても今は巨大な満月ですが、それがどんどんと近づいてきて、なおかつ再びどこからともなく、聞こえてくる笛の音。ペンギンに合わせてブレーキをかければ、美しい女の人が。
 今時、十二単なんて時代錯誤も甚だしい(決して否定的な意味ではありません)思ったけれど、それを言うなら踊るペンギンなんて、時代錯誤どころか、生物の本質を飛び越えてしまっていますからね……。
 十二単の女性が言うには、ペンギンと一緒に月からやってきたとのことですが……。時期ではないというのは……アレとかってことですか? なんでしょう、月なんてはるか遠くにある物とという認識の人々にとっては、開閉扉なんていう文字通り「地に足のついた」言葉を月の住人から言われるというのは、なんというかこう……落ち着かないといいますか。さすがにここは月ではないですから、開閉扉がポーンとかいう軽快な音を立てて跳ねているなんてこともないでしょう。ホッと一安心です。
 おっと、まるで見返りのように、今からお帰りになる泰己に食べ物を要求してきましたよ、この美女さん。……ん? 月では食べ物を口にしたことがない?
 泰己のチョコレートを受け取って、嬉しそうにした次の瞬間には、ペンギンの羽ばたきとともに消えていた、美女さん。まるでチョコレートの残り香のように、後に残るのは笛の音のみ。
 酔っぱらってみた夢というには、あまりに現実的すぎる。泡沫どころか、泡も残さず一瞬で消えた一人と一羽。消えたチョコレートの行方。今は残り香すら残っておらず、手品と言おうにも、本当に種も仕掛けもない。
 物事はとらえ方次第。ラフに捉えれば、Rough(笑い)飛ばせるような、そんな愉快な話ならば、笑い声ならば、あるいは月に届くかもしれない。それは夢のような話かもしれないけれど、別に不思議じゃない。月からこちら側に来れるんだから、その逆もまた然り。酔いは冷めても、あの宵の日はいつまでも醒めない現実のような。
 あぁ、でも。こんな素敵な物語と踊れた夜は、どうか明けないで欲しいと切に願いながら、私は最後の「ピリオド」という、小さな小さな一回転を決めて、この感想を、この素敵な物語と踊れた夜を締めたいと思います。