プレ空の巣症候群

 タイトル通りの母子分離。母子じゃないけど。でもそれくらい密接で深層心理的なつながりの姉弟に訪れた転機、これをとてもみじかい文章でえぐるようにあらわしています。

 かたや姉はじぶんにいい聞かせるように母子分離(だから母子じゃないんだって)を飲み込もうとこころみますが、こなた弟はどこまでも純真にそだってゆきます。
 じぶん自身の成長と変化をよろこび、姉も応援してくれるはず、そんなよくいえば裏表のない、わるくいえば罪作りな弟に対し、姉は空の巣症候群のように肩を震わせます。
 
 この心理がこうなってああいうふうに流れてこう帰結する、そう物語を細かく咀嚼するたのしみかたもあるでしょう。事実それもおおきな魅力です。
 しかしわたしの思うに今作の主眼というか決め手は、姉と弟であまりにも温度差のある「家庭」への意識に目を向けることができるか否か、です。

 帰る家なのか出る家なのか。家ではだれが待っているのか。
 この短文であらわしきった作者さんへ表敬します。