70、80年代に興ったロマンノワールの再興と見受けた。
贅肉を削ぎ落し、文体には親切心の片鱗さえうかがえない。
読むひとが読めば21世紀に蘇りし暗黒小説の寵児とでも絶賛されるところだ。
ストーリに無駄も余分もなく読者の目を滑らせる。とてもよい。かなりよい。だが、売れるかと問われれば悩ましい分野でもある。この点については結果論なのでわたしがここでどうのこうのといっても始まらないので、ごく一部のコアなファンによる邪推程度にお受け止めいただきたい。
本文に丁重な解説とか分かりやすい文章は存在しない。
ただ起こっていることを無感動に記録している本作だが、どうして場によって受け止め方が違うのか。
なるほどロマンノワールはニッチなカテゴリだ。それでいて熱心で熱狂的な読者も擁する分野で、読後感は『膝を打ちすぎてアザになったもとい軽く骨折した』となる本作であるが、『カクヨムでロマンノワール読める日が来るなんて……しかも今日……』と、朝からシャンパンを開けたくなるほどであった。
よくよく注意して丁寧に読めばたいへん面白い作品だ。
ただ『注意して読んでもそんなんでもなかったで』という方は、単純に合わなかったというだけで作品自体の評価を左右するものでもないと考える。
わたしだって原著講読はできないし医学論文だって読めない。つまり、そういうことだと思う。
合う合わないはあるにせよ、それを無視して素晴らしい作品であるのは断言させていただきたい。