祈りは届くということ。どんな形でも、涙が出ても、幸いであるということ。

 とても安定した文体で詩情に富み、なんのストレスもなく全話読み終えました。筆致は素晴らしいのひとこと。ストーリーテリングも見事で、終盤、一気に引き込まれました。

 登場人物たちもファンタジックに謎めいていて、でも人間臭いところもあります。

「それで、結局これどうなったの?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。読者にできることは読むことのみ。大海に浮かぶ一艘のボートを作者によって引き揚げられるのを待つだけ――と思っていましたが、この作品ではプラスアルファがあります。

『祈り』——これが読者に委ねられた、ラストのさらに先の物語です。幸せになっていたらいいな、とか、泣かずにすむ日があるといいな、とか。読み手には物語を大きく動かす力が残された作品でした。

 わたしが世話になった主幹牧師曰く、福音は毛穴からも入ってきます。祈りも同じくして届き叶うよう、期待しています。

在主

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