Sid.190 最終話 更なる高みに向かって

 元王女であるメグも平民に馴染み、町を発展させた功績を得た。

 伯爵夫人として相応しい存在になれたか、やはり気になるのか聞いてきたが、名前で呼んだことが全てだと言うと喜んでいたな。

 可愛げを見せてくれば、俺もその気になるものだ。たぶん愛せる存在になるだろう。体は申し分ないくらいにエロかったし。王族ってだけでエロさが倍増した。

 なんだろう、高貴な身ってのは平民と違うのだろうか。

 以前は毛嫌いしていたのだがな、俺も変わったかもしれん。


 二つの町を治める領主ってのは、この世界では決して珍しい存在ではない。

 多いわけではないが能力のある貴族ならば、領地を複数持つこともできるわけで。ただし、忙しさは町の数と人口に比例する。

 クヴェルの町も人口が増え始め、そろそろ人口ボーナスが期待できそうだ。

 そうなるとさらに発展することになる。

 ヨルゲンと今後について話し合う。


「冒険者ギルドに併設し、ここにも養成所を作ろう」

「教官の手配はどうするのですか」

「イリエンデの冒険者ギルド養成所出身者を充てる」


 丁度ランクがエーヴェル・メランニーヴォの冒険者が居るからな。結局、グレーゲルと話をした時点から、相当経ってアヴァンシエラとメランニーヴォの間に、ひとつランクが追加された。

 元のユリアレベルだから指導教官として、問題は無いだろう。ユリアは現在アヴァンシエラに昇格してる。リーリャユングフルの前衛として、ソーニャと双璧を成してるからな。

 アヴァンシエラのパーティーなんてのは、今時点でもまだない。

 それでも、そろそろ出てきそうではあるが。指導教官が優秀だからかもしれん。


「魔法使いは?」

「クリスタの指導で急成長したのが居る」

「では、その方々に来てもらうと言うことで」


 養成所に勤務すれば通常の年金にプラスして、恩給を得ることができるようにしてある。まあ公務員のような扱いだからな。

 冒険者を若くして引退しても、指導者になれば余生は安泰ってことだ。

 複数の特典があれば希望者は現れるもので。


 因みに、養成所では主に座学になる。武器防具の取り扱い方やメンテの方法。魔素の取り扱い方法もだ。数発放って息切れしてたら、これからの冒険者は務まらん。更に化け物の種類と行動。特殊能力持ちも増えていることで、予備知識は重要になっている。

 特殊能力持ちを増やしたのはフィズだけどな。余計なことをしてくれた。

 座学が済めば実践として森林や、化け物が跋扈する平原に出向く。

 充分に実力があると判断すれば、晴れて冒険者となり卒業。無理なら留年かやめてもらう。向き不向きはあるからな。


「本当なら治療院もなんだが」

「治療魔法を上手く使える人が」

「それなんだよなあ」


 テレーサなら治療院で治療師として勤務させられる。以前から怪我の治療では、他の治療師より遥かに優れていた。今は菌も理解し細菌性感染症も対処可能だ。

 だが、イリエンデから離れる気はないし。そもそも快適な屋敷を出る気もない。上水道に加え風呂とトイレが快適過ぎるからな。

 ここの城も風呂とトイレを改装すれば、もしかしたら来るかもしれんが。

 それだとリーリャユングフルから抜ける必要もある。無理だな。冒険者引退までは。


「セラフィマに指導してもらおう」

「治療院で忙しくないですか?」

「テレーサと交代で勤務させる」


 冒険者稼業は適宜行えばいい。すでに優秀な冒険者が巣立ち、方々で活躍し始めているからな。

 現在必要なのは治療師だ。医者だ。人の健康を預かる仕事は必須だし。

 看護師も必要だから育てないと。


「医療系の学校を創立しよう」

「なんですか、それは」

「治療や病気予防に関する知識を得る学校」


 魔法だけでの治療も限界がある。投薬医療も考えないと。医薬品も限られた物しか無いからな。

 アデラ頼みになるかもしれん。創薬事業の要はセラフィマで製造はアデラだな。

 結局は転生者なしには何も進まんってことか。いや、違う。この世界の技術水準が低いから、転生者に負担が掛かるだけで。この世界基準の医療ならば、この世界の人々で賄える。だがそれだと中世に毛が生えた程度。

 やはり俺含め転生者が馬車馬の如く働くしかない。


 イリエンデは充分発展した。政治経済の学校はあるからな。

 クヴェルには医療系の学校を置き、生徒を全国から集めればいい。それだけで町が発展するし、医療も大きく前進することになる。

 特に予防医学は重要だろう。病気に罹らない、ってのは何よりの治療だ。


 もう少し知識のある転生者が欲しい。


 ヨルゲンとの相談を終えイリエンデに戻り、執務室に入るとフィズが居る。


「この世界に転生者って」

「居ますよ」

「どこに?」

「他の大陸ですが」


 数年に数人程度は転生者が発生しているらしい。

 だが他の大陸ってことは。


「海の遥か彼方ですね。ドラゴンでも九時間は掛かります」


 時速九百キロの場合だ。


「私が瞬間移動させれば、文字通り瞬間ですよ」

「それって」

「体は今のままでは無理ですね」


 パペットだろ。それは嫌だ。利便性は高くなるが人じゃない。メイもそうなのだが、彼女の場合は化け物だったから、それよりはまし、ってだけだ。

 元々人なら何も別物になる気はない。


「寿命を千年にできます」

「長生きし過ぎだっての」

「ですがメイさんと私とも長く居られます」


 メイのことを考えるとそうなのだが。フィズはなあ。


「私では嫌なのですか?」

「嫌と言うより、もう少し人間味が欲しい」

「まだ不充分だと言うのですね」

「感情や思考の面で」


 楽に移動できる航空機が欲しい。

 さしものアデラも無理があるからなあ。航空機製造に携わっていた人がいれば、アデラと組むことで実現可能性は高まると思うが。


「居ない?」

「だから居ますよ。他の大陸に」


 行けばいいってことか。九時間掛けて。

 その後、航空機を作れれば移動は楽になる。今だけ苦労すればいいのか。


 相変わらず考えることや、しなければならないことも多い。いや、しなければ、ってのは元の世界基準にしようとするからだ。

 この世界基準であれば急激な技術革新は不要。


「のんびり腰を据えて進めれば良いのです」

「確かに」

「では、のんびりついでに繋がりましょう」


 こいつ。性欲剥き出しだろ。


「当然です。そのための人型ですよ」


 俺と繋がるためだけに人を模した体を構築した。人の愛情と同じかどうか知らんが、愛したと言ってるからなあ。

 フィズに執務室から強制的に出され、屋敷の自室に向かうと行為に及ぶことに。

 嵌まると危険な体なんだよ。生身の女性が及ばない快楽を得られるからな。だから月に数回程度にしている。不満そうだけどな。


 ファーンクヴィストの町の発展は、国王だけに留まらず他国も気になるようで。

 化け物を使役する技術は他国より優れ、政治経済や医療に冒険者の技量まで。

 国王を介しメリカントからの使者が訪れる。また、これまで国交の無かったクラウフェルトも国交使節団を派遣してきた。

 視察に訪れる町はイリエンデとクヴェル。俺が領主を務める町だな。


 更には瓦解したプラヴィット帝国だったが、皇帝が失脚し新たにザフトラ王国となり、クラウフェルト国交使節団に混じり、国交樹立の交渉に入ったようだ。


 だが、ファーンクヴィスト国王が突然の崩御。

 病死だったようだが、これにより世継ぎ問題が発生した。


「チャンスです」

「何が」

「国王になれば良いのです」

「無茶な」


 フィズがそそのかしてくる。天使を使えば従わざるを得ない。国王になれば何もかも自分の裁量で進められる。

 目指せとか言い出す始末だ。絶対嫌だからな。


「王子如き傀儡でもいいのですよ」


 そんな手段もあるのか。

 フィズにまんまと、そそのかされて第一王子を影で操ることに。


 傀儡でしかない新生ファーンクヴィスト。その裏で暗躍する俺。

 なんか嫌過ぎるだろ。


「英傑に相応しいですよ」


      ―― 第二部 完 ――


 予定より長くなりましたが、これで「冒険者ギルドの~」は終了となります。

 最後までお付き合い頂いた方や評価、応援をして頂いた方へ厚くお礼申し上げます。

 ありがとうございました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冒険者ギルドの受付嬢と女性冒険者を愉しむ異世界奇行―Ⅱ 鎔ゆう @Birman

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ