第282話 番外編 ナヒョウエ⑤

 ナオリンから欲しいものがあると相談の手紙が来た。


 今の地球で手に入るか不明だが、もしも手に入るなら送りたい。




『ジャンプン。地球でもう入手は難しいかな。週刊ジャンプン』



 その依頼を読み、皆で首を傾げた。



「週刊ジャンプンとは、あのジャンプンですか?」


「漫画雑誌のジャンプンか?」



 ナオリンの手紙には、ダンジョンB2のセボンで手に入れたジャンプンだが、セボンの商品はいつ買いに来ても同じ商品なのだそうだ。

 つまり並んでいる雑誌類も同じだ。



「いや、続きはもう読めないだろう。こんな地球じゃ漫画家さんも出版社ももうないだろ?」


「それがナオリンの手紙によると、続きはもう諦めたけどそれ以前が読みたいってさ。どこかの本屋で入手出来ないかって」


「あー、確かに災害直後に物資収集した中に本屋もありましたね」



 そう言って皆自分のアイテムボックスに『週刊ジャンプン』で検索をした。

 うん、災害時に店舗に並んでいた物だな。皆同じ雑誌だった。



「ナオリンがあっちで読んだのはどの号なんですか?コミックスでもいいのかな」


「何でもいいみたいですね。漫画が読みたいとあります」



 俺たちはとりあえず本屋で収集した漫画や雑誌もナヒョウエを通して彼方あちらへと送った。






 そんなある日、はるちゃんから面白い提案をされた。



「国会図書館? あぁ、それ、俺行った事があるぞ?」


「やっぱり。かおるの勤務先が東京の日比谷ひびやと聞いたのでもしかしたらと思いました」


「何なんですか? その国会図書館? 国会議員が利用する図書館ですか? カオさんが知っているとは珍しいですね」


「父さん、こっかいって何? 黒い海?」


「違う違う。くにに会社のかいで国会」


「国の会社なの?」



 ん〜?……聞かないでくれ。知らん。



「名前は厳ついけどな、国会図書館は誰でも利用出来る図書館だ。ほら拠点にも図書館あるだろ?本がいっぱいあるとこだ」


「あら、知りませんでした。国会図書館は誰でも利用出来たんですね」


「そうなんだよ。そして、俺が行った事がある理由、それは!」


「それは?」


「何と、漫画もあるんだ! しかも漫画雑誌まで! しかもしかも最新刊も読めるんだぁ!!! 無料でだぞ!」


「凄いねっ!父さん!」


「そ…れは、凄い?ですね……」


「実は俺、ジャンプンの最新刊を読みに国会図書館まで行った事がある。が、しかし、毎週俺より先に誰かに貸し出されて読めず、悔しかった。読んだらすぐ返却しろよな!……で、結局行かなくなった。俺はライバルに負けたんだ……」


「父さん……」



 マルクがハッシと俺に抱きついた。ありがとう、慰めてくれて。



「それではるちゃん、国会図書館がどうしたんだ?」


「ナオリンさんが言ってたジャンプンの過去分もそこにあるのではと思いまして」


「おお! ある!絶対あるぞ!」


「問題は国会図書館が津波や火山の被害を受けてどうなっているか、ですね」



 あー……、確かに。日比谷公園とか水没してたよなぁ。国会図書館は俺が居たやまと商事から見ると、日比谷公園の向こう側、国会議事堂の近くなんだ。



「国会議事堂も水没してたよなぁ。図書館が無事とは思えない」


「見に行くだけ行ってみませんか?」



 はるちゃんの言葉に俺たちは日比谷ひびやへ行く事にした。



 まずはブックマークにあったやまと商事の屋上へとテレポートをした。

 あの『大災害』と『大噴火』から2年なのに、そこら一帯のビルは十年も放置されていたかのように崩れかけたまま火山灰に埋もれていた。


 水没していた都内の水は引いたようであったが、ビルの谷間は瓦礫と火山灰の山であった。

 だが、この辺りはまだ地面が残っていたのか。

 まぁ、地面が無い地へはるちゃんが俺らを誘うわけがない。


 人も獣もいない、静かに滅びた街。



「草が生えてる」



 マルクの声でマップを確認するが、赤く映っていないことから魔植ではない事がわかる。

 ただの雑草か。けど凄いな。こんな地にも雑草は生きて伸びていくのか。


 はるちゃんについて、日比谷ひびやから霞ヶ関かすみがせき方面へと移動していく。

 建物の窓から瓦礫や車が飛び出ている、この辺一帯もやはり水没していたんだな。


 俺が覚えている風景とは全く異なっていたが、方向的にはうん、そっちだった事は覚えている。



「ここらですね」



 交差点っぽい場所の中心ではるちゃんが止まった。俺は何となく思った方向を指差した。



「たぶん……、あそこの建物だと思う」



 そこに建っていた4階建ての建物は2階の窓まで水没したのか、窓ガラスが割れて瓦礫が突っ込んでいた。


 確か、蔵書は地下に保存されていると聞いた事があった。何情報だったか忘れたが。

 建物の状態を見て、これは無理では?と思った。



「とりあえず入ってみましょう」



 はるちゃんの言葉に従い、俺たちは屋上へと外壁を登っていった。

 中へは屋上から侵入、4階にはカフェとコンビニがあった。


 ああ、記憶でもこんなだったかも知れない。ジャンプンの最新刊を俺より先に借りたやつが読み終わるのを待つために、カフェで時間を潰した記憶が蘇った。



 3階の吹き抜けから1階を覗くと、何と浸水した形跡はない。

 そうか、1〜2階は窓のある部屋ではなかった。いや、職員が働いていた部屋は窓があったのかも知れない。

 国会図書館は図書の持ち出しは禁止だし警備もしっかりしていたっけ。簡単に持ち出せないようになっていたのが幸いしたのか。



「本が貯蔵されている場所はどこなんでしょうね?」



 キヨカがキョロキョロとしている。



「本、無いねぇ」



 本は全てパソコンでの操作で係員に取り出してもらうシステムだ。そこらにあるわけではない。

 普段は多くの利用者や職員が働いていた場所も綺麗な状態で閑散としているところをみると、おそらく『大災害』前より閉館していたのだろう。



「地下っぽい気もしますが、どこから降りるのでしょうね」



 通常の階段は一階までしか降りられない。エレベーターは勿論動いていなかった。

 職員用の階段を見つけて降りて行く。



 凄いぞ、かなりの蔵書を発見。

 これは……、慣れている者でも遭難しそうだな。


 4人で手分けをしたが、その日はジャンプンを見つけられなかった。

 と言うか、それぞれが途中で手を止めてしまった。



「や、これ、面白い!」


「読みたかったやつです!どうしよう、今日借りていっていいですかね」


「うわ、懐かしいー」


「父さんこれ美味しそぉ」



 因みにマルクが手に取ったのはスイーツ系の本だ。写真が沢山載ってるやつ。



 その日はブックマークだけして帰還する事になった。

 帰還してからタウさんらに報告をしたら、皆が行きたがったのでブックマークに連れていった。


 ただし、週刊ジャンプンの捜索には全員参加をしてもらう。




 後日、無事に発見。

 ナオリンへ連絡を取った。

 国会図書館の蔵書力よ、凄いな。創刊号からあるんじゃないか?



 異世界へは曜日を決めて定期的に送る事にした。

 月曜日はジャンプン

 火曜日はチャンピンオン

 水曜日はサンデーン

 木曜日がマグジン


 金曜日は休刊日で、土曜日は女性誌。

 日曜日も休刊日だ。

 

 勿論、ちゃんと返却をしてもらう。期間は1ヶ月の貸し出しだ。

 やまと屋の隣でナオリンが貸し本屋を開き管理をしてくれている。漫画は異世界でも大人気だそうだ。



 俺はちょっと気になっている。日本語どうなってるん?



 完

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俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが! くまの香 @papapoo

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