感想・1

豆ははこ様の『春の星』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075367734734

 桃の花がでてきます。春だからといって、桜以外の花を用いているところがいいです。また、「また、星の季節がきたね」の書き出しから、読者に大きな謎を投げかけ、花の形から春の星と形容したのは妻であり、彼女は昏睡状態にあるという流れで物語をいざなっていく書き方は良かったです。

 春の星を象徴としているから、結末に愛と奇跡が起きるまとめ方は、とても上手いと感じました。感情が押さえきれずに涙するラストで「啼く」の書き方が良かったです。



佐藤宇佳子様の『佐砂井の郷』

https://kakuyomu.jp/works/16818093074845633845

 二人称で書かれた作品。一人称、三人称で書かれた作品が多い中では、貴重であり、挑戦的でもあります。なにより、二人称の主人公あなたとは、読者になります。一人称とはちがった形で、作品世界である郷へといざなっていく書き方が良かったです。読者を楽しませようとする意図を感じます。

「佐砂井の郷」を訪れ、亡き恋人カオルと一夜限りの再会を果たすが、日の出とともに別れを余儀なくされます。詩的描写が良かったです。



幸まる様の『繋ぐ季節』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075228673514

 四季を司る妖精たちと人間の世界の話。冬を嫌う人の声をきいて、冬の時期を減らしてしまうも、世界のバランスが崩れてしまう様子を描いています。現在世界で起こっている異常気象を別の視点から描き、四季の妖精が仲を取り戻していく結末からメッセージ性が感じられ、大人向けの童話のようでもあります。



ヒニヨル様の『ハルちゃん』

https://kakuyomu.jp/works/16818093074884148156

「春の雨は冷たい」という書き出しから、そうだよねと読み手に頷かせてくれます。一つ納得すると、続きも読んでみようと思えてくるので、書き出しがうまいです。しかも、描かれているのは、ハルちゃんとガキタくんの恋の話。勘違いで失恋されるも、それも思い違いだったと二人は結ばれる流れ。起伏がよくできていて、雨が小雨になってきたことから、雨降って地固まるを思わせる終わりは実にうまい。二人揃って、ハルガキタ。だけど、ガキタはあだ名で垣田が本名だと明かされるとこも、よかったです。



大隅スミヲ様の『はるの風』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075228086703

 書き出しは、「梅の花が咲き乱れていた」とあり、平安時代を舞台にしているのがわかります。春の花といえば、当時は梅。春の花は桜だけではないことを選んでいるところをみても、よく考えて書かれています。しかも、お話に出てくる言葉の意味を、読者にさりげなく伝えているところから、読み手にお話を楽しんでもらおうとする作者の意図を感じます。



しぇもんご様の『春に咲くおじさん』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075103731317

 SFです。春になると咲いて、次の満月の夜に散り、金言めいたことを言うおじさんを面白がって、最盛期には上野公園の桜の一割ほどがおじさんに変わったほど春の風物詩となったが、「桜は春しか見られませんが、おじさんにはいつでも会えるでしょう」と当時の都知事の言葉と、一本のおじさんが残した言葉「構わねえよ。もともと見せもんじゃねえしな」により伐採。いまでは、ほとんとみられなくなった二十年後。庭でおじさんを育てる就活生の話。シュールな世界を描きながら、リアリティーを感じさせつつ、面白いと感じさせてくれます。カクヨム甲子園だったら、読売新聞社賞が取れるのではと邪推したくなります。



犀川よう様の『別れの餞。』

https://kakuyomu.jp/works/16818093074846207357

 春の香港を舞台にした、男女の性関係を描いた作品は、読者を選ぶのではと考えます。作品から、いつごろの香港を舞台にしているかわかりませんが、性的なものを描きつつも純文学であり、表現したい意図を感じます。時代背景と春画的要素、劉との別れから、テーマの「春」を描いていると考えます。

 香港と深圳の描写は物語にリアリティを与えているし、劉との関係に葛藤する描写もよいので、読み手は主人公の心情に引き込まれます。

 劉との関係を続ける動機や、売春宿へ連れて行く理由などを掘り下げると、物語に深みが増しますでしょう。



上月祈様の『桜菫抄』

https://kakuyomu.jp/works/16818093074822956300

 春に八幡神社を参りを描き、桜や菫を用いて、怪異の話をですます調で書いています。登場人物の性格描写に活用できるだけでなく、時代背景や人物の立場を丁寧にできるため、作風にもあっているし、読者を意識した書き方だと思います。



大田康湖様の『桜の花びら、ひらり』https://kakuyomu.jp/works/16818093075118264576

 桜まつりが行われている隅田公園を舞台にしながら、次回作に悩む漫画家の橘梨里は、マンガ『厩橋お祭り食堂 誕生篇』の制作に協力した横澤康史郎氏が一年前になくなったことを思い出し、公園で横澤康史郎の友人、丹後論たちと出会い、亀戸の『Ron』でダイニングバーを経営していることを知る。次回作は、横澤氏の家族をもとにし、フィクションの中だけでも息子さんと和解させてあげたいと思いつく話。桜が咲く瞬間を撮影した娘の話もうまく噛み合わせて、次回作に思いつく展開は、短編として上手くまとめ上げられています。


チャーハン様の『人為的な春』https://kakuyomu.jp/works/16818093075523618134

 SFです。AIに春を表現させるのに苦労した主人公は、彼女が行きたかった高校の満開の桜をみせるも、制限時間となり「家族思い出しサービス、カコミ」の終了が訪れるという、どんでん返しが描かれています。テーマから連想される桜や入学、別れなどを使いながら、独特な切り口で描きまとめているところは、読者の胸を打ちます。

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