感想・2
クロノヒョウ様の『嫌いな春と、ランドセル』
https://kakuyomu.jp/works/16818093074958957905
春になると落ち着かなくて逃げ出したくなる主人公が、六年付き合った彼と別れて単身都会で生きていく話です。春が嫌い、ランドセルに好きなものを入れて家出しようとしたら重くてやめたことを前半で描き、後半は考えが変わる姿が、短い話の中で描かれてまとめられているところがよかったです。元彼からのメールで、主人公に、桜も春が嫌いかもしれないと親近感を与えてから、桜も毎年ちゃんとやってるから、気にせずやっていけばいい、一人で自由なんだし、重かったらおろして、心を軽くして頑張れとエールを送られて「初めて春を気持ちいい」と感じて終わるから、読後感が本当にいいです。
めいき~様の『東風』
https://kakuyomu.jp/works/16818093074872250184
自分語りの独白の形で書かれています。
雪が溶けて春を待つ中、もうすぐ取り壊される公園に一人でいる老人が、いまは亡き妻と子の思い出を振り返ります。親子連れやじゃれ付く猫たちの春は暖かいものだといいなと願いながら、世界から一人取り残されていく侘しさが、よく描けています。
大木げん様の『ガラスの思い出』
https://kakuyomu.jp/works/16818093075653263687
現代ドラマです。七年付き合っていた彼に振られ、ガラス工房開業を夢見つつ、夜はキャバ嬢として働いていると、上司と部下の客と出会い、部下である後輩君は失恋の痛手を引きずっていた。荒療治のリハビリを兼ねて二人は期間を設けて付き合うことに。二年後、後輩くんから結婚の報告をもらい、主人公も念願のガラス工房を開業し、結婚する運びとなって終わる。読後感がいいですね。いまの時代性を感じさせつつ、大人の恋愛模様を上手く描いている所が良いです。
豆ははこ様の『ただ、きみをみる。』
https://kakuyomu.jp/works/16818093075026185002
大学の花見で出会った主人公と若菜君との交流を描いています。若菜君の美しさと独特な魅力に引き込まれる主人公の視点から、桜の下での会話や感情の揺れ動きが繊細に描かれています。花見の風情の中、読者は内面描写と彼への感情の変化を、主人公を通して感じられます。きれいな言葉遣いと心地よいリズムで書かれた上手さがあります。
鳥尾巻様の『画鋲』
https://kakuyomu.jp/works/16818093074890155871
ホラー作品。奥深いテーマを扱いながら、読みやすい文体がよかったです。祖父の死後、夜に怯え、眠りと死の関連性を考える主人公。眠れなくなった子供の頃、夜の魔物から自身を守るために画鋲をばらまいたり、窓辺に並べたりして結界を張った。大人になった今、再び画鋲を使うことを考えるがよく書けています。画鋲というありふれたアイテムを用いて恐怖と退治する様子だったり、独特な表現が印象的で面白かったです。
京野 薫様の『春と雪』
https://kakuyomu.jp/works/16818093075458939731
ホラー作品。擬音の表現が面白いです。美しくも不気味。祖父の屋敷にある蔵の下に住む雪と沙織との交流が描いて読者をひきつけ、結末は衝撃的です。蔵へと引き込まれ、雪に窒息させられ、生き残れば永遠に一緒にいられると告げられるのです。春と桜は、色彩と生を描くのに用いているところが上手いと思いました。
結音(Yuine)様の『月下の桜』
https://kakuyomu.jp/works/16818093074716762867
ホラー作品。詩的で美しい書き方がされています。桜の花びらが白すぎると感じて穴を掘る男と出会い、桜のために穴を埋めると、美しい紅色に変わり安堵します。愛人に話し、彼にも穴を掘ってもらい、穴を埋めると桜は紅色をつけて喜んで見せてくれるも、愛人はもういない。桜の花びらの色と人の感情との繋がりを描き、読み手に愛と喪失、美の追求を考えさせてくれる作品です。
諏訪野滋様の『純情と桜』
https://kakuyomu.jp/works/16818093074125658735
喪失と再生と自己確認を描いています。大学の入学式を終え、キャンパスを歩く彼女は、恋人との別れと喪失感に苦しんでいます。偶然にも恋人に似た女性と出会い、深い感情を呼び起こすも、チャンスを振り払い、想いが確信に変わったことを確認。桜並木を駆け抜け、未来へと向かう決意を固めていく姿に、内面の葛藤と成長を感じられます。桜の花びらが、物語全体に生命と情緒を与えているところがいいです。
紫波すい様の『【短編】春の葬送』https://kakuyomu.jp/works/16818093075314247648
喪失と希望を描いてます。主人公自身が好きなウェブ作家が突然作品を削除し、消えてしまった。自分にとって非常に重要だったので、作品がなくなったことに深い喪失感を感じ、その作家の「葬送」を行い、コインロッカー前で感謝と別れを告げます。最後に、いつか再び作品を書くことを願って終わっています。内面的な葛藤と成長を読み手に感じさせてくれます。一時的にものを預けるコインロッカーは、消えたウェブ作家や再び書くことを願う期待の象徴として選ばれたのかもしれません。
時輪めぐる様の『迷子の春』
https://kakuyomu.jp/works/16818093075626418579
現代ファンタジーです。大学入試に落ちて落胆した主人公が、公園で春を司る女神、佐保姫に出会います。迷子の佐保姫は主人公の助けを借りて奈良に帰り、お礼として主人公の「桜」を咲かせます。繰り上げ合格ではなく予備校で彼女ができるという、どんでん返しを描きながら、人生が再び明るくなって終わりを見せてくれたところが面白かったです。
ゆげ様の『飽和。』
https://kakuyomu.jp/works/16818093074078393656
生きづらさを感じつつも、負けてたまるかと友達の通夜に誓いを立てる姿を書いた純文学。
男の娘・女装をコンセプトにしたカフェの従業員として知り合い、仲良くなった友人エミの葬式に参列し、その死と自身のアイデンティティについて思いを巡らせる様が描かれています。彼(彼女)の死と家族の反応に対する複雑な感情も繊細に書かれており、読者に深い共感を呼び起こします。
友達の家族は息子である陽道の葬儀として送り、主人公は友達エミの葬儀に参列することで、陽道とエミ、どちらも弔うことができて良かったと思います。
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