感想・3

未来屋環様の『散りばめられた星たちは、まるで』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075517127946

 現代ドラマ。人の弱さと強さ、失敗から立ち直る大切さを感じさせるハートフルな物語です。勤続十年の主人公は、新人部下が機密情報を含んだ資料を別の得意先に送りつけるミスを犯す。複数の目でダブルチェックすることを怠った失敗と向き合いながら、チラシ配りする美容師の女性と出会い、彼女から学び、自己反省する過程が描かれています。チラシ配りと花びらが落ちる光景が重なるところから、チラシを受け取る行為から好転していくところが良かったです。傲慢な気もちがお客様に伝わってしまったと反省し、初心に戻って克服するためにチラシ配りをして立ち直ろうとする様は、大事だと感じるし、アスファルトに散りばめられた花びらが星のように見え、夜空を見る。「まるで、日々を懸命に生きる人々の光のようだった」と締めくくられるところも良かったです。



鈴ノ木 鈴ノ子様の『再び、芽吹く』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075436663246

 人生の困難さを乗り越え、新たに切り開く様を描いています。東京でキャリアを積んで働いていた眞壁頼子が脳疾患により下半身不随となり、ゆっくりとしか話せなくなり退職。愛知県山間部にある実家に戻ります。幼馴染で大工の達也と再会。バリアフリーに改修工事をしにきては関係は深まっていく。達也に地元「花桃の里」というイベントの宣伝活動を手伝ってほしいと頼まれ、彼の車で毎日支所に通い、宣伝活動に取り組んだ結果、イベントは大成功。観光協会の常勤職員として採用される人生の再生と希望を美しく描いており、まるで再び芽吹く春のように読み手に感じさせてくれます。



@zawa-ryu様の『ふうふ見ず知らず』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075526017582

 突然の同居生活を始める状況に直面する様を描いています。五條大夢と五條莉乃は、互いに見知らぬ存在でありながら、生活の困難を共有し、新たな生活をスタートさせる決断をします。彼らが新しい状況にどう適応し、成長していくのか期待させられるところに、スタートを切る春らしさを感じさせられます。



青切様の『ハ、春』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075355048366

 過去の罪悪感と孤独感、未練を巧みに描いています。春の散歩中にかつての恋人を思い出し、彼女が亡くなったのではないかと感じます。しかし、彼は彼女に連絡することを選ばず、スガシカオの曲を聞いて昼寝をしたあと、連絡を取るも生きているか確認するためだけで彼女に会う意志はないと告げるあたりに、複雑な感情を感じてしまいます。

 愛や悲しみなど普遍的な感情描写に長けた山上憶良の歌を持ち出したり、スガシカオの「八月のセレナーデ」恋人に対する官女と葛藤を描いています。こうした歌をつかい、主人公の内面を描き示す書き方は、すごいと思いました。



ハマハマ様の『凛と咲く花の季節に。』https://kakuyomu.jp/works/16818093075068270015

 辛夷の花を描いた作品です。叔母の孟夏に求婚する独特なシチュエーションの中、主人公の内面的な葛藤と彼女の反応が巧みに描かれており、二人の微妙な感情の変化を読者は感じることができます。四月の異名や、辛夷の花の効果的に使われているのも、作品に魅力を出しているところが良かったです。



ろくろわ様の『四月馬鹿』

https://kakuyomu.jp/works/16818093074797260067

 自身の感情と春の変化を理解する過程を描いています。主人公の仁科はカフェで春の訪れを感じながら春の意味について考えていると、元恋人である高橋から突然告白を受けます。しかし、春は別れの季節でもあるのを理解しており、高橋の提案には慎重となり、考える時間を要求し別れます。

 期待する返事を彼にしない彼女の心を覗き見ることで、複雑な心情を味わえるところに面白さを感じます。

 セミの比喩ですが、春に啼くハルゼミもいるので、作品にあっていると思います。



ミナガワハルカ様の『ラ・プリマヴェーラ』

https://kakuyomu.jp/works/16818023213377998804

 夢と現実、過去と未来に揺れる少女の心情がよく描かれています。タイトルは、イタリア語で「春」を意味しており、物語全体のテーマと密接し、書かれているところが素晴らしい。

 両親の離婚によりO県のM市に引っ越してきた中学生の女の子は田舎になじめず、美術が唯一の慰め。新学期に転校生の男の子が現れ、ボッティチェリの絵画『春』の模写に興味を示します。東京出身という共通点で仲良くなり、彼がいつか自分を田舎から連れ出してくれると夢見ます。彼に告白されて喜ぶも、田舎で農家になると言い、ショックを受ける。その後、彼は不慮の事故で亡くなり、彼の死を受け入れられず、彼の記憶を心に留め続けます。主人公の心情に深く感銘し、人生の脆さと強さを感じさせられます。



@tumarun様の『藤の花の下で、香りが誘う』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075925908565

 藤の花の香りが描かれています。下校途中、美鳥は微かな香りに導かれて子供の頃に遊んだ公園を再訪。そこで、かつての遊び仲間である一孝さんと再会、二人は藤の花の下で甘い時間を過ごす。藤の香りが子供の頃の記憶を呼びさまし、懐かしい公園で彼と再会して、甘酸っぱい恋の感情を上手く描いているところがステキです。読者に青春を思い起こさせるだけの、作者の描写力が素晴らしいです。



花恋亡様の『春霞、瞳に写した薄桃色が映ゆる』

https://kakuyomu.jp/works/16818023213236765023

 生と死と希望がていねいに描かれています。心臓病の主人公が入院中、写真を撮る男性と交流し、彼の死後、彼の母から彼が撮った写真を見せられる。写真は彼女の春の姿を捉えており、彼女は自身の感情に葛藤する物語です。主人公とカメラマンの交流が印象的。バタースコッチキャンディがよかったですね。親切の象徴であり、交流から内面の変化や温かさを感じられ、読み手に深く響きます。彼の母親の視点によって深みを与え、暗く感じさせないところが良かったと思います。



卯月二一様の『ああ、たしかに春は来ました。そうなんですけどね……』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075098361095

 時代性を感じさせるファンタジーです。戦争の影響が広がる中、冬の終わりと春の訪れを背景に、旅人と妖精の交流、冒険を描いています。最後、平和を守る決意をする場面で終わるところに、温かさと希望を感じさせてくれます。



秋坂ゆえ様の『桜に消えたあの人は紅葉を見ない。』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075004771401

 音楽を通じた先輩との深い絆が描かれています。先輩の演奏したチェロの曲と桜の花びらが象徴的。先輩の消失後も彼女は先輩の存在を信じ、その思いが季節の移り変わりと共に描かれています。桜の中に居続けることを願い、曲にタイトルを付けないことで、未来への希望としているから、読後に暗さを感じさせないところが良かったです。

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