冒頭部にまず惹き込まれます。不意に訪れる病から人生の転換期を迎えてしまう主人公の頼子。予兆なくして訪れた暗転がもたらした先に展開される新しい季節の来訪。まさに厳冬たる病を振り切るように麗らかな春へと駆け出していくような心地よい臨場感を覚えます。 実家へと戻った頼子。そこで幼馴染の達也と再開し物語は加速していきます。達也の言葉に心がふっと軽くなる安心感。ふたりの少し離れた距離感を、身体の不調が快方に向かう描写として引き合わせる表現の豊かさが秀逸です。 どこか心の不安が春の暖かさに溶けていくように美しい、春の祝福が芽吹く心温まる小説です。
急な病気でキャリアをあきらめ、実家に戻った主人公。半ば世捨て人のような心境の彼女のもとへ幼馴染が訪れ、とあるお願いを……主人公の簡素で、しかし哀しみをたたえた心情の吐露が胸をうち、生きていることの価値、人がどう生きるかを改めて考えさせらるる作品です。この物語で俊逸なのは、その心情を彩るような、すがすがしいこの季節の描写です。色彩豊かな周囲の描写が、とても美しく希望に満ちた物語を味合わせてもらう気持ちよさを、読む者に与えてくれます。
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