感想・4

スロ男(SSSS.SLOTMAN)様の『春をひさぐ』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075573970885

 読み手を選ぶ作品であり、時代性を感じさせます。立ちんぼの世界に身を置く主人公は、快楽を求めつつも、愛された経験のないことに悩み、一時の快楽と永遠の幸福を追求しながら葛藤する様子を描いています。性的なテーマを扱いつつ、欲求や葛藤について普遍的な問いを投げかけているところも、上手く書けていると感じました。



月庭一花様の『パレードが続くなら。』https://kakuyomu.jp/works/16818093075536580188

 ファンタジーっぽさがあり、愛と別れ、人生の儚さが描かれています。

美術教師である野々市椿の教え子である石蕗衿花との関係を描いた物語。衿花は中学を卒業し、二人はデートを計画。しかし彼女は傷つき、二人は桜の下で時間を過ごす。椿は衿花に告白し、愛と春の美しさを称えます。父の遺影やテディベアとの会話や、二人が抱えている孤独感が印象的。美しく書かれているところが良かったです。



犀川よう様の『春に沈む』

https://kakuyomu.jp/works/16818093076057715871

 春を背景に青春の葛藤を描いた作品。非常に上手いです。感情描写がとてもよく描かれているため、読者に深く共感を抱かせてくれます。

弟への感情が中心に書かれており、家族への思いや自身の成長と変化とともに深い反省をしながら葛藤し、気持ちを春に沈めていこうとする終わり方が良かったです。



月井忠様の『春を騙る女』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075449774333

 日常に潜むサスペンスホラー作品。心情描写が上手く、ドラマが見事に描かれているのがよかったです。

日常生活に飽き、新しい恋を求めている彼女。突然現れた男性が、過去の恋人たちについて知っていることに驚き、彼が刑事であることを知り、刑事の彼と一生付き合っていくことを決めて、春が舞い降りたと終わる展開に、読み手は引き込まれます。物語の結末が予想外なので、読後の余韻も残る。春をテーマにしながらのサスペンスは面白かったです。



みうら様の『くるっていく』https://kakuyomu.jp/works/16818093075459833243

 恋愛の淡い思いと苦悩を描いています。主人公の中学生男子が自分の好きな女子が大学生の男性に恋をし、その後失恋、最終的に自殺する悲劇的な展開は衝撃的。

「NTR」とは、寝取られ。「BSS」 とは 「僕が先に好きだったのに」 の略語。最後馬鹿だなと安堵するのは、死を通じて彼女への愛情を深く理解できたから。同時に、もっと早く気付いて助けることができなかった自己批判もこもっているのでしょう。



紫陽_凛様の『コールド・スプリング』https://kakuyomu.jp/works/16818093075032122734

 近未来SF。わたしたちの未来を暗示しているようにも感じられます。

 環境保全を失敗した未来社会で、人類はAI「nanoPEACE」により自然の音を失った。主人公の母親は、nPを拒否し、自然の音を保持していたが地震により、救助の手が届かず命を落とす。nPを開発する会社で働く父親は母親を助けられなかった主人公を深く恨む。その後、父と同じ会社で働くことを決意。目指すのは、人類が聴覚を取り戻す未来です。毎年四月一日の命日に、亡き母が作っていたチョコレートケーキを食べ、母を偲びます。科学進歩と感情に葛藤する姿が描かれ、いろいろと考えさせられます。



大和田よつあし様の『魔法使いの夜』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075761541768

 タイトルに意表を突かれました。大手就職に失敗し派遣をしている鶇里子が、職場の同僚である雲井主任と夏芽と共に「魔法使いの会」という短歌の会に参加する物語。初参加で、短歌を披露する場面も描かれ、鶇里子が酔っ払ってしまうところで終わります。

 登場人物たちの個性が鮮やかに描かれており、特に鶇里子の内面の描写が印象的。妄想が面白い。なにより短歌を通じたコミュニケーションが人間関係を深めつつ、今後どのような展開を見せるのか、続きが非常に気になります。



縦縞ヨリ様の『帰っておいで』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075525623003

 時代性もあり、信仰についても考えさせられます。

 神職を継ぐために大学進学予定の受験生である主人公が、父親と共に天災で亡くなった人々の魂を迎える神々の姿を見る体験を通じ、神々の存在と役割について理解を深めていく様子を描いています。

 神々が魂を探す姿を見て、神々が優しくて根気強い存在であること、自分が信じればそれだけで力になると父親から教えられます。最後、神々が帰ってきた魂を見つけたことを知って終わるところは、神々の限界と愛を感じられたのが良かったです。



碧月葉様の『ゴーストハント協会 日本支部 東北方部会 ―― 卜部香と桜の夜――』

https://kakuyomu.jp/works/16816927861524047660

 日本版ゴーストバスターズといったところでしょうか。これは面白かったですね。

 新たなパートナー、碓井創一郎と共にゴーストハンターとして活動する卜部香の物語。彼らは桜の下で幽霊を昇天させる。最後の一人、桜の木を蹴飛ばしていた小さな女の子の霊とのやり取りが良かったです。ゴーストハントの専門性にこだわるだけでなく、感情と超自然的なことが上手く組み合わさっていて、読者を物語に引き込む書き方がされているのが良かったです。今後、二人がどう活躍していくのか、非常に気になるいい作品です。



フィステリアタナカ様の『あの人に会えた奇跡』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075095894246

 内面の変あと成長を描いています。勤続八年目の主人公は仕事に疲れ、癒やすを求めて小学校時代の初恋の相手を思い出し、故郷に戻る話。当時の記憶を蘇らせたくて、タイムカプセルを掘り出し、彼女が彼を好きだったことを知り、思いかけずに彼女と再会して終わります。

 心温まる話です。気になったのは、タイムカプセルを掘り返すのは、二十歳などの節目のとき。会社に入って八年ということは、大卒で就職したと仮定すると、主人公は三十歳。小学校卒業時に埋めたタイムカプセルが、掘り返されずに残っているのかが気になりました。





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