感想・5

秋犬様の『春ノ夜ノ夢ノゴトシ』

https://kakuyomu.jp/works/16818093074685018716

 読みやすく、それでいてホストクラブの世界を現実味あるように書かれているところがいいです。

 彼氏と喧嘩したチカは、ホストクラブで働くヒサシと出会い、彼のエース(一番多くお金を使う客)となり、彼のために生きることを決意して身を売って稼いだお金をヒサシに収め、彼を永遠の天使とみなして終わる。チカにとっては自分を見つめ直し、新たな人生を歩みだした成長物語。だけれども、ナンバーワンになる目的をもっていたヒサシに、エースに育てられている。このあたりに、リアリティーを感じます。



天川様の『婆不幸娘』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075911282825

 実際にありそうな話と感じさせられます。

 孫が祖母の車のタイヤ交換を手伝い、祖母を病院に送る様子を描いています。結婚や子供を持つ意志がなく、そのことで祖母を失望させていると感じ、祖母への送迎やタイヤ交換などをして罪悪感を抱きながら春を迎えます。

 孫としての、内面的な葛藤と成長が巧みに描かれており、独身である読者に共感を呼び起こさせられる強い物語だと思います。



ミナガワハルカ様の『ある春の思い出』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075819410803

 猫視点で書かれた作品。

 猫を飼っている人は、身につまされるかもしれない。

 十五歳の猫が主人と過ごす春の日々が描かれており、主人への愛情と、自身の寿命を意識した切なさが交錯する中、ちゅ~るに飛びついたり主人に甘えたり、幸せな時間を求めていく。猫の純粋さと人間の日常が上手く、愛情の有限性について書かれているところに、読み手は気付かされ、考えさせられるところが良かったです。



きょうじゅ様の『春にして、君を離れ。』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075175891298

 大人になるというテーマは、多くの読者に共感できるものだったところが、良かったと思います。

 成人を迎えることに憧れていた主人公が四月一日、ついに二十歳の誕生日を迎え、煙草を吸うことを通じて大人になった本当の意味を考えるまでを描いています。

 内面の変化と成長がよく描かれており、堂々と喫煙所で吸って大人の仲間入りをしたのに、むしろ全力で排除されるような気分となるところが面白かったです。



煙 亜月様の『永遠のさよなら(旧・明日ありと思う心の仇桜)』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075037646581

 人生とは予測不能で複雑な様を上手く描き出しています。

 篠崎勇太と恋人である劉春花との関係を描いています。彼女はフーゾク業界で働いており、源氏名はハルミやハルコなど、客層に合わせて変えていたが、自分の名前に縁があることに不満を感じ、互いに本名ではなく想い人の名で呼びながら関係を深めていた。しかし、彼女の生活状況が思わしくなくなり、彼に別れを告げる手紙を残して姿を消します。二年後、彼女の子供の存在を知り、劉勇春の面倒を見ることになります。

 物語の終わり方は、いいなと思いました。たんぽぽの綿毛を飛ばすように煙草の灰をふうと吹き飛ばすのは、書き出しと対となっており、オチとしてもよく、上手くまとめられています。

 感谢一路有你的陪伴、永别了はたしかに「バイバイ、ありがと、さよなら」の意味ですが、これまで同じ道を一緒に歩んでくれた大切な人に感謝の気持ちを述べつつ、新たな一歩を踏み出す際に使われます。彼女なりの、愛していた意味を表しているのでしょう。



きょうじゅ様の『ザッハの甘い嘘』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075619870811

 古典的なチョコレートケーキの一種、ザッハ・トルテのエピソードが語られた話です。

 ウィーンの公園で少女アンナと出会った老人(フランツ・ザッハ)は、かつてメッテルニヒ家で有名な「ザッハ・トルテ」を考案したことが語られます。

 歴史的な背景と人間ドラマが描かれているところが上手いです。フランツの人生とザッハ・トルテの起源は、物語に深みとリアリティを与えてくれています。

 また、フランツが出会ったアンナは、あのクリストフ・デメルの娘。のちにザッハトルテ起源で揉めた相手側との組み合わせは、実に興味深かったです。



神永 遙歌様の『私だって光輝く側の人間になりたかった』

https://kakuyomu.jp/works/16818093074760108937

 孤独と希望の話です。

 大学二年目の主人公は友人もなく、自己肯定感を失い、孤独に日々を過ごしている。ある日道端で一つの若芽を見つけ、成長を見守ることで自身も少しずつ変わっていく様子が描かれています。

 主人公の内面的な葛藤と成長、若芽を通じて、希望への可能性を示す書き方は上手いです。構内の学生たちの輝きからは希望を見出せなかったけれど、若芽の輝きからは、双子が生まれてくるはずだった自身の秘密まで引き出させるほどの力があったことを、読み手に感じさせてくれます。対比の見せ方は良かったと思います。



dede様の『ある春の晴れた日に』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075595997639

 近未来SF。

 訪れた氷河期に生きる母親と息子の日常を描いています。母親は息子に春の経験を伝えられず、彼がメディアでしか四季を知らないことに苦悩します。ある日、晴れた日に外に行こうよと息子に言われ、何かあるかもしれないと期待を胸に、手を繋いで外に出ていく。

 厳しい環境下でも、母親の愛情と希望が描かれていて、感動を覚えます。四季の経験が、どれほど人に感情や経験に影響を与えるほど大切なものなのか、読者であるわたしたちの世界で起こっている環境問題についても考えさせられます。


 

フィステリアタナカ様の『ウメと筍』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075555764784

 異世界へ行って体験し、現実世界へ戻って来る話。

 イケメンでお金持ちの高校生、田中ケンが愛する人を見つけるヒントがあるかもしれないと思い、黒猫に導かれて異世界に行く。苦労しながらも幼馴染のウメと共に生活し、侍から彼女をかばう。気がつくと現実世界に戻っており、受け取った手紙からから体育館裏へ行き、女子から告白される。

 異世界と現実世界の対比や、田中の成長と恋愛の進展が上手く描かれています。筍は男根的な隠喩かしらん。前世の縁を確かめることで、現実世界で運命の人と巡り合えた魅力的な作品でした。



朱緑樹様の『わたしに散る桜』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075470080644

 桜の花びらが象徴的に描かれた、現代ファンタジーの恋愛もの。

 主人公が神社で出会った少年との交流を描いています。少年は主人公の恋人であり、彼の死後、主人公は彼の霊と再会、関係は深まって別れます。

 桜の花びらをつかった感情の描き方から、美しさと哀しさを感じさせられて、感動的で良かったです。



進藤 進様の『気だるい、もの思い』

https://kakuyomu.jp/works/16818093074993794959

 恋愛に奮闘するサラリーマンの日常を描いた話。

 山田悟は大手設計事務所で働く、春が嫌いな一級建築士。彼は仕事をさぼり、公園で散歩を楽しみ、独り言を呟く。同僚の業務アシスタントをしている山本さんに恋をしているが、気持ちを伝えられずにいる。ホワイトデーから遅れること一週間、出張土産に恋心を託して堂島ロールを渡す。ある日、山本さんが山田の独り言をすべて聞いていたことが判明。彼女も山田が好きだと告白。以来、山田は春が好きになる。

 日常にある小さな幸せや恋愛の喜びを描いており、とくに山田の独り言による人々の様子は、読んでいて心が温まります。

 詩のように一文を短くして読みやすく、独特のユーモラスな書き方がされており、楽しく読むことができました。

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