感想・6

川中島ケイ様の『Re:bright ~もう一度、輝くために。~Ep.1』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075734578068

 現代ドラマ。挫折と成長の物語。

 二十五歳、加賀流星はフリーの騎手で、厩舎の解散により騎乗依頼がなくなり、厳しい状況に直面していた。自分の運命を変えるため、特別な意味を持つ馬、リブライトに乗ることを決意し、新厩舎の福山に懇願します。彼の覚悟を認めた福山は、リブライトの騎手として流星を受け入れる。流星は、「もう一度、輝きを取り戻す」と名付けられた馬の元へ走り出していく。

 主人公の情熱と決意が、読み手に伝わってくる書き方が良かったです。舞台となっている競馬の世界について具体的に書かれているため現実味を感じさせてくれているのも良いです。

 これからの、主人公の挑戦と成長がとても気になる終わり方で、続きが知りたくなります。



フィステリアタナカ様の『閉じ込められた幸運』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075401352193

 とても心温まる物語です。

 トオルが部活の後、誤って倉庫に閉じ込められる出来事が起きる。気付いた顧問に出してもらった帰り際、彼が好きな女の子の迷い猫を見つける手助けをする。自分が閉じ込められた経験から、あの女の猫もどこかに閉じ込められていないか訪ね、父親が車のドアをあけたまま庭仕事していたことを思い出し、発見の手助けとなります。この出来事が二人の関係を深めるきっかけとなり、トオルは閉じ込められた経験が幸運をもたらし、サビ猫は幸運と呼ぶのは本当なのだろうと信じようとする。

 ほんの偶然の出来事が、人間関係を変えることを描いており、主人公の誠実さや思いやりが印象的に書かれていました。くり返しがきいていて、上手いと感心しました。



睦 ようじ様の『公主、湖岸にて友と安酒を呷る』

https://kakuyomu.jp/works/16818023212117282972

 中華ファンタジー。

 龍の公主である楊祥姫と村の役人風信が落頑湖で酒を酌み交わす物語です。風信が持ってきた新しい酒は、たまたま村の者がいたずらで桃源の桃の果汁を絞り入れたというもので、ゆくゆくは村から出せば、なにもない村にも売れるものができ、人も増えるといった村の未来を象徴するものであり、罪を犯して都落ちしたものを働かて真っ当にさせる話などして、人間の世界と自然の理を語り合い、互いの存在を尊重し理解し合います。

 感想としては、人間と神々との共存と理解、風信と祥姫の微妙な関係性も魅力的で、面白かったです。



@syu-inononn様の『ブロッサム・エクスプロージョン!!』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075812411695

 異世界ファンタジー。

 魔法使いの少女ルティアが、村を襲う魔物を退治する物語です。

 彼女の強大な魔法力と勇敢さで魔物を倒し、村を救います。その後、彼女は友人のミコトと共に酒を楽しみ、レスト王子探しの話題が出ます。ミコトはルティアが探している王子の手がかりを知っているようです。

 ルティアの活発さと彼女の魔法の力が印象的。ルティアとミコトの会話から、二人の関係性や彼女の探し物についての興味深い話が出てきて、世界観を感じさせてくれているところが良かったです。

 魔物を倒したら温泉(スプリング)が出てきたところに、テーマを描いているのかしらん。

 改行して一文を短くしており、読みやすさを重視した書き方がされています。壮大な物語の、ほんの一部を描きながら、秘密を上手く組み合わせている書き方は、読み手に続きを期待させます。



syu.様の『春底に眠る』

https://kakuyomu.jp/works/16818093076321297699

 ファンタジーっぽさを感じる失恋と再生の話。

 主人公は失恋の痛みを抱えて海底で過ごし、手紙とともに愛の言葉を失い、自身が溶けていく感覚に苦しみますが、最後は再び愛を見つけ、春と溶け合う希望を抱きます。

 春に溶けながら、詩的な表現と深い感情描写で愛と再生を描いているのが印象的です。失恋の痛手を独特の世界観で描きながら、主人公の内面の変化を示しています。

 全体的に隠喩なのか。それとも文字どおり、失恋した女性が春の海へ身を投じ、歌うことが春という彼と溶け合う行為であり、溶け合って生まれ変わることを海底で夢見て永眠していくのか。どちらにしても、綺麗かつ感情豊かに描かれ、読後も希望すら感じます。



榊琉那@屋根の上の猫部様の『桜の国の散る中を』

https://kakuyomu.jp/works/16817330667787400734

 孤独と自己探求、人生の価値を見つめ直す話です。

 喘息を患う少年ケイジが療養所で過ごす中で家族の愛情を欠き、孤独と向き合い、桜の花が咲く季節に現れる謎の少年との出会いを通じて、家族との関係や自分の存在価値、人生の目的について深く考えます。自分の中にある「悔い」や「未練」を認め、それが消え去ったとき、謎の少年が再び現れることを期待します。

 ケイジの内的葛藤と成長が深く描かれており、読者にも考えを促す作品だと感じました。何のために生まれて、どんな価値があるのかをみつけるために生きていく。いつか、成すべきことを成すために生まれてきたと気づく時まで。あるかどうかわからないものを求めるより、自ら希望を作り出して掴みに行くしか価値を見出すことはできない。夢が結実せず夢のまま腐って悔いになる前に。

 桜を通じ、季節感や時間の流れを表現しているのは良かったです。



まーくん様の『春❣️』

https://kakuyomu.jp/works/16818093076264530602

 ノンフィクション作品と想起されます。応募規定にエッセイは不可とあるので。

 高校進学時、周囲の反対を押し切って不良生徒が多い学校に進学。初日から不良に目を付けられ、いじめに遭う。結果、精神科に送られて高校中退。加害者たちの謝罪がなく、彼らに対する怒りを覚える。桜を見るたびに復讐心が芽生え、夢の中で晴らそうとするも満たされない。父と同じ自動車メーカーで働く夢があったが、いじめによって叶わず、社会復帰が困難と医師に宣告され、いじめの事実を小説に書いて世間に知らせようと決意する。

 苦しみと怒り、不公平さについて考えさせられます。また、創作を通じて自己治療を試みる姿には希望を感じます。現実の問題に対する解決策として、これが最善の方法であるかどうかは、読者に委ねられているのでしょう。



双葉紫明様の『母猫』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075546742557

 現代ドラマ。

 シングルマザーとして生きている母親の葛藤や、抱いている愛情が上手く描かれています。どんでん返しがくみこまれていて、驚かされます。

 シングルマザーとして四人の子供と一匹の猫と共に生活する中で、過去のパートナーとの関係や、子供たちの成長、未来について深く思いを巡らせます。彼女は特別な始まりの春を待ち望んでいますが、現実は厳しく、余裕ある未来への希望を持ち続けている姿を想像して書いた、別れた男の作品だった。

 彼女が抱く思いや、過去のパートナーとの関係をどう捉え、未来を見据えているのかがリアルに描かれているところは、上手く表現されており、読者も自分ならばどう行動し、どのように相手を扱うべきかについて、深く考えさせられます。



消える魔球はあいみょんの金玉様の『3月38日』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075420536733

 ユニークな着眼点とユーモラスな描写が魅力的です。

 田中が二〇二三年度から二〇二四年度へのどう移行していったのかが描かれています。彼は仕事のストレス、社内恋愛のフラグ、自身の成熟について考え、新たな年度への期待と不安を抱きつつ、自分自身と向き合っていく。

 内面変化を描くことで、働く大人の日常と年度末の混乱と新たな年度への期待感が、読み手にも共感を得られる部分だと考えます。チープさを織り交ぜながら、愉快で深みのある読み物にまとめています。



消える魔球はあいみょんの金玉様の『春になったら起こしてください』

https://kakuyomu.jp/works/16818093074603587382

 挫折と成長を通じて、働く大人の日常と心情がユーモラスに描かれています。

 新入社員歓迎会の一発芸大会に、田中は自身のパフォーマンスで会場を盛り上げることを決意し、小橋建太さんの水平チョップの形態模写を披露することにします。だが、チョップを受ける役として選んだ後輩のイッペーが、予想外にタフであることが判明し、田中は苦戦を強いられます。最終的に田中がイッペーの強さに圧倒され、自宅で目を覚まします。イッペーに電話すると、彼は極真空手をやっていたため平気だったと知る。昨日の敵は今日の敵に気づきながら、電話を切って物語は終わります。

 一発芸大会が作品にリズムと緊張感をもたらし、田中のキャラクターの心情をリアルに描きながら、周囲との関係性が鮮やかに示されているところなど、全体的に楽しい読み物でした。



刹那様の『春なんて、死んでしまえばいい』

https://kakuyomu.jp/works/16818093076305619509

 絶望と希望、生と死、愛憎が交差する現代ドラマ。

 カレシが来るからと友人A子の家を出て、自身の過去と向き合う主人公の美春。父は母の浮気で家を出て音信不通。母は浮気相手を連れ込む始末。三か月ぶりに帰宅すると、見知らぬ男と関係を持っている現場に遭遇。ショックを受けて家を飛び出し、絶望の中で自らの命を絶とうと踏切へ足を進めるも、A子の姿をみる。跳ね飛ばされた後、母に助けられたことを知るも「生きてさえいれば美しい春になれるから」と笑顔を残して母はなくなる。主人公は、自堕落ながらも前を向いて生き続ける決意を固める。

 生きる意味や、自身を見つめ直してどう再生していくのかに迫って書いている点が印象的。葛藤と成長が繊細に表現され、家庭環境がどんな影響を及ぼすのかを考えさせられます。

 


syu.様の『拝啓、花泥棒さんへ。』

https://kakuyomu.jp/works/16818093076474463041

 失恋の痛みと向き合う過程を描いています。

「全ての生物が海から生まれたとしたら、全ての生物は一体何処へ向かうのかな」海辺で問いかけ、「最低な恋」だったと述べ、「きっと空に向かうと思うの。水と一緒。循環するの。だって限りがあるから」と、持ってきた花を海辺に並べ、茎からもぎ取り、花弁をちぎった花たちを食べる。恋人と別れたときのこと、その後の感情について語り、録音してきた思いを、元恋人にボイスメッセージとして送って終わります。

 恋人との別れを受け入れることで自己を見つめ直し、自身の感情を花に喩え、飲み込むことで彼に奪われていた心を取り戻し、海に花を返すことで過去と向き合う勇気にして、自分の感情を録音した音声メッセージを元恋人に送る姿は、失恋から立ち直ろうとする儀式を描いていると考えます。

 読者も、整理のついていない感情をどうすればいいか、考えるきっかけとなるかもしれません。言葉遣いや描写にこだわりを感じ、繊細に表現しているのも印象的です。

 メル氏のボカロ、『さようなら、花泥棒さん』からインスパイアされたかもしれませんね。



フィステリアタナカ様の『峠道』

https://kakuyomu.jp/works/16818093076476264715

 悲しみや後悔を乗り越え、前向きに生きる大切さを教えてくれます。

 取引先から帰るとき、峠道で事故が多い話を聞きます。その後、彼は峠道で白い服を着た女性を見つけ、車に乗せてある場所へ連れて行く。その場所は、主人公が前世でプロポーズをする予定だった桜の木。彼女はその相手であり、峠でなくなったハル。消える前に愛していると告げ、またデートしようと提案。彼女は「愛しています」と言って消える。彼女と再会する日まで、人生を楽しむことを誓う。

 愛情は時間や空間を超えること、主人公の優しさと思いやりが印象的です。

 娘と桜の花を見ている様子は、ハルとの思い出を大切にしながらも前に進んでいることを示しています。ひょっとすると、娘はハルの生まれ変わりかもしれない、と思わせてくれる終わり方をしています。ちょっと不思議でステキな話ですね。



森メメント様の『夜桜の下で、もう一度。』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075060019419

 時代物。幕末の志士であった源助と、彼の過去を探る物語。

 源助が遊女たちと宴会を開くとき、一人に遊女に刺され、「皮剥ぎ源助」と呼ばれた。穢多の身分であった源助は、かつて長州藩の屠勇隊に所属し、多くの敵を殺してきた。「皮剥ぎ源助」は、多くの敵を接近戦で殺したことから付けられたあだ名だった。

 源助が過去に出会った一人の女性、小春。江戸城が無血開城となり、束の間の休息を受け入れられず、酒で恐怖をごまかすしかなかったとき、解放してくれた酒屋の娘が小春だった。自分を受け止めてくれた人であり、もう一度会おうと東京を放浪する理由でもあった。

 遊女は小春の娘、椿。源助の娘でもある。彼女は源助を仇と見なしていた。殺される前に墓参りをしたいから明日にまた桜の下で殺し合わないかと提案、その場を離れるのだった。

 椿を通じて、過去の行動が現在の状況、子供にどのような影響を与えるかを描いています。

 過去と現在、罪と贖罪を上手く絡めているところがよく、描写が素晴らしい。椿との戦闘や内面描写は鮮やかに書かれています。

 全体として、よく出来ています。



月井 忠様の『春を望む男』

https://kakuyomu.jp/works/16818093076410545068

 宇宙船の事故で月面に取り残された男が、異星人の助けを借りて地球への帰還を目指す物語。

 彼は春の訪れと桜の美しさを思い出しながら、灰色の月面を歩くも、地球はかつての青い星ではなく、業火に堕ちた死の星と化していた。それでも男は、あの星を蘇らせる大きな一歩を刻むことを誓うのだった。

 異星人との交流や月面での生活などが物語に深みを与え、読者を引き込んでいます。過酷な状況に直面しながらも、春と桜を思い出して故郷への深い愛情を感じさせ、希望の象徴とする書き方は感動的。希望を失わずに前進し続ける姿は勇気づけられます。

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