第7話 シンVSアース
リサと別れたシンは、人通りのない裏路地の方へと足を運ぶ。
「……アースなのか」
シンが暗闇に向かって話すと、アースが姿を現した。
「よくわかったな、さすが幼馴染」
アースは皮肉を込めて笑い、そしてシンを睨んだ。
「また会えて嬉しいよ……と、言いたいところだけど、君は違うみたいだ」
シンは寂しそうに微笑み、アースを見つめる。
「俺はおまえを許さない。
おまえが表の世界でのうのうと生きることなんて俺が許さない。
俺が絶対におまえを倒す、主の命によりおまえを殺す」
アースの瞳からは怒りや憎しみの感情が溢れている。
その声は冷え切っており、シンの知っているアースの声ではなかった。
共に生き、共に戦い、共に笑い合った、あの……。
「アース、すまない、俺にはまだやることがある。
今まで人を
そう決めたんだ、わかってくれ」
「そんなこと、知るか! それはおまえの勝手な言い分だろう。
おまえは主を、俺を裏切ったんだ……おまえだけは信じてたのにっ」
アースは唇を噛んで下を向く。怒りで体は小刻みに震えていた。
「俺はおまえになりたかった!
俺より強く、仲間からも信頼され、主に気に入られて……。
俺はおまえに憧れて、ずっとおまえのっ、……馬鹿みたいにおまえのことを。
おまえが嫌なやつだったらよかったのに。だったら楽だったのに。
……リンだって、おまえのこと」
「リン? リンがどうした?」
シンが尋ねるがそれには答えず、アースは刀をシンに放り投げた。
「それを使え、おまえの持っている刀では勝負にならない」
そう言うと、アースが刀を構えた。
「勝負だ、シン」
アースの瞳はまっすぐシンをとらえる。決意のこもったその表情からシンも覚悟を決める。
「本気なんだな……」
シンは刀を拾うと、それを構えた。
久しぶりに持つ真剣は重く感じられる。
二人が向かい合うとその間を風が吹き抜けていった。
アースが動く。一瞬でシンの懐へと潜り込んだ。
決まった!
アースが刀を握る手に力を込めた。
次の瞬間、シンはアースの後ろへと周り込んでいた。
アースの背中に打撃を与えようとするが、アースはぎりぎりでシンの攻撃をかわす。
すぐに反撃を試みる。
シンの足を引っかけバランスを崩させようとしたが、
次にシンの脇腹を狙い、剣を振り抜いた。しかし剣で弾かれてしまう。
「シン、おまえ本気じゃないだろう」
アースは怒りと悔しさを滲ませる。
確かにシンは本気を出していなかった。アースの攻撃を受け流しかわしていく。
アースは苛立ち、次々に攻撃を仕掛けていった。
「本気を出せ! でないと……」
そのとき、アースの視線が動く。
その視線の先にいたのは少女だった。どこからか迷い込んできたらしく少女は辺りをキョロキョロと見回している。
「お母さん、どこ?」
少女は母親を探すことに夢中で二人の存在に気づいていない。
アースが不敵な笑みを浮かべる。
「やめろ!」
シンが叫ぶと同時にアースは少女の目の前に立った。
「シン、おまえが悪い、本気になれ」
アースは少女に向かって刀を振り下ろす。
同時にアースの喉元にシンの切っ先が向けられた。
アースは息もできず、唾をごくりと呑み込む。
シンの瞳は昔のものに変わっていた。
組織で一番強かったあの時の目。
そう、その瞳だ、シン。
アースはシンの刀を弾き返し、もう一度シンへ攻撃を仕掛けた。
しかし、先ほどとは比べものにならないほどの速さでシンはアースの攻撃をかわし、攻撃を繰り出していく。
何度挑んでもアースはシンに一撃も食らわすことが出来ず、反撃を食らってしまう。
アースは必死にシンに攻撃するがことごとく返り討ちにあった。
とうとうアースは力尽き地面に倒れた。
シンの刀がアースに向けられる。
「なんで……、俺を斬らない」
シンの攻撃は全て峰打ちで、アースはダメージを食らっていたがどれも致命傷にはなっていなかった。
苦しそうに顔を歪めたアースがシンを睨み続ける。
「もう、誰も殺さない。……それに、アースを殺せるわけないだろっ」
シンは泣きそうな顔でアースを見つめている。
そんなシンを見てアースが吐き捨てるようにつぶやいた。
「そんなこと言ってるから、おまえは駄目なんだ」
アースはシンから顔を背ける。
シンはゆっくりとアースに近づき、手を差し伸べた。
「アース、俺だって君に憧れてたんだ。
君は人のことを引っ張っていく力がある。それに、君はすぐ人に馴染み、みんなから慕われる。人を惹きつける魅力がアースにはある。
君は気づいていなかったかもしれないけど……羨ましかったよ。俺には無いから」
アースは驚き、シンを見た。
まさか、シンが自分に憧れていたなんて思いもしなかった。
「お、おま……」
「そこまでよ」
アースがシンに何か言いかけたところで、突然暗闇から声が響いた。
二人が声の方へ振り向くと、サキが姿を現した。
「サキさん……」
驚いた表情でサキを見つめるシンとボロボロの姿で倒れているアースを見て、サキは深いため息をつく。
「もう気がすんだ? アース」
「は? どういう意味だ」
倒れながら睨んでくるアースは無視して、サキはシンに顔を向ける。
「シン……心配してたのよ。でも、元気そうで安心した」
「ご心配おかけして、すみません」
シンがサキに深く一礼する。
「謝らないで、わかってたの。
あなたの性格上、組織で生きていくなんて、地獄よね。
……でも気をつけなさい。主はあなたのことあきらめてないわ」
サキの真剣な眼差しを受け、シンは深く頷いた。
「覚悟の上です。それでも俺は自分が決めた道を生きていきます」
その言葉を聞いたサキは優しく微笑んだ。
「うん。昔から決めたことは譲らない子だったからね。
頑張るんだよ……」
サキは俯き涙を堪えるようなしぐさを見せる。
「シン、私はあんたの味方だから。ずっとあんたの母親代わりだと思ってる、それだけは覚えておいて」
サキがシンを引き寄せ抱きしめる。
はじめは戸惑っていたシンだったが、ゆっくりとサキの背に腕を回し抱きしめ返した。
「……ありがとう」
シンがサキの耳元でささやく。
すると、二人のやりとりを眺めていたアースが叫んだ。
「おい! 俺を無視するな。何勝手に話進めてんだよ」
「あー、はいはい。あんたを迎えにきたの、帰るよ」
サキは
そして、サキはシンに笑顔を向ける。
「シン、またね。……ほら、あんたも何か言うことないの」
サキはアースを睨み、顎で合図する。
渋い顔をしたアースがシンから目を逸らし、ぼそぼそと話した。
「後悔しても知らないからな。
組織にいればよかったって、俺たちと一緒にいればよかったって。
あとで思っても遅いんだからな……」
アースがゆっくりとシンを見つめた。
「死ぬなよ」
アースとシンの瞳が交差する。
あの頃を思い出す……二人がまだ幼く、笑い合っていた。
「ああ、アースも元気で」
シンが微笑むとアースも笑ったような、そんな気がした。
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