第6話 アースの想い
「嘘だろ! ふざけんな! 俺は許さない!」
アースがシンを睨み、怒りにまかせ叫ぶ。
「でも、もう決めたから」
シンの瞳からは決意が滲んでいた。アースはシンに詰め寄る。
「俺らが今さら、表で生きていけると思うか? それに、組織が許さない。
……あの方が許さない!」
シンは黙り込む。アースがシンの胸ぐらを掴んだ。
「ちょっと、アース!」
見守っていたリンがアースの腕を掴んで止めようとする。
「俺たちはここで生きるしかないんだよ、拾われたときからその運命は決まってるんだ。俺たちが普通に生きられるわけないだろ!」
アースはシンを壁に押しつけ、叫んだ。
シンの瞳が一瞬揺らいだが、すぐに二人の目をしっかりと見みつめる。
「アース、リン、ごめん。……俺、決めたんだ」
シンの強い眼差しに見つめられ、アースの手が緩んだ。
「シン……本気なのか。
なんでだよ、なんで! 約束したじゃないか、三人でずっと一緒に生きていくって」
アースの目には涙が光っていた。
「アース、俺は二人のこと大好きだよ。
今までのこと決して忘れない、これからだって君たちを想う。本当の家族みたいに思ってる」
シンは二人を愛おしそうに見つめた。
アースは拳をぎゅっと握りしめる。
「おまえなんか、もう家族でも親友でもない! 今度会うときは敵だ」
そう言うと、アースはシンに背を向け走り去っていく。
その姿をシンはただ悲しげに見つめていた。
そんな二人を見てリンは大きくため息をつく。
「シン……、本気なのね?」
リンの真剣な眼差しがシンへ注がれた。
シンはゆっくりと頷く。
「ほんと、あんたたちの世話は疲れるわ。
シンは決めたこと譲らないから私が何言っても無駄でしょ。アースは私に任せて」
リンが軽くウインクする。
「リン……ありがとう。君にはいつも世話になってばかりで、本当に感謝してる」
真面目な顔をして礼を言うシンに、リンは呆れながら笑う。
「シンにはこの世界は合ってない。ずっとそう思ってた」
リンは悲しげにシンを見つめたあと、手を差し出す。
「気を付けて、組織はあなたを許さないわよ」
リンが微笑むとシンは彼女の手を握り返し、微笑んだ。
「ああ、わかってる」
シン、俺はおまえが大嫌いだ。
いつも、いとも簡単に俺を超えていく。
出会ったときからおまえは何も変わっていない。
はじめから俺より優れていた。誰より強く、賢く、完璧だった。でも、たった一つ弱点があった。
おまえは優し過ぎる。
人のことばかり考え、人の痛みや悲しみを感じてしまうおまえは、この仕事に一番向いてなかった。それは俺が一番わかってた。
しかし、おまえはその才能と実力が仇となり、主に気に入られてしまった。
俺だって、主に気に入られようと頑張った。でも、おまえにだけは叶わなかった。
いつも羨ましかったよ。
人間としても、男としても、尊敬してた。おまえが羨ましくて、憧れて……。
自分には手に入らないものをおまえは全て手に入れていた。
なのにそれを捨てた、いとも簡単に捨てたんだ。
俺が努力しても手に入らないものを。
俺やリンのことも裏切った。
シンとリンだけは信じてた。この誰も信じられない世界において、二人だけは信じていた。
決して裏切らないと、ずっと一緒に生きていくのだと。心の底から信頼してた。
だから、シンだけは許せない……どうしても。
「シンさん、いつもありがとう、荷物重くない?」
前が見えないほど大量の荷物を抱えるシンに向かってリサが尋ねる。
リサの買い出しに付き合い、シンは荷物持ちの役割を担っていた。
「大丈夫。それにいつもご馳走になってるから」
シンが笑うとリサも嬉しそうに笑った。
二人が微笑み合いながら歩いていると、
「よっ、いつも仲がいいね」
「見せつけないでおくれ」
通りにいる人たちが声をかけてくる。
あの事件以来、リサの家で世話になっていたシンは毎日買い物やお使いにと駆り出されていた。そのときいつもリサが一緒なので町の人は変な誤解をしているようだった。
「もう、変なこと言わないでよ! 私たちは別にそんなんじゃ」
なぜか、顔を赤らめたリサが言葉を濁した。
そのとき、するどい殺気をシンは感じる。
この気は……。
シンが黙ってしまったのでリサが心配そうに声をかけた。
「シンさん? どうしたの」
「いや、何でも……さ、早く家に帰ろう」
シンは足早にリサの背を押し、その場を去っていった。
シンとリサが遠ざかる姿を物影からじっと見つめる者がいた。
「シン……俺はおまえを、許さない」
ぎゅっと拳を握りしめ、アースはシンを睨んだ。
そして、アースから少し離れた場所でリンが二人の様子を眺めていた。
「シン、アース……私はどうしたら」
リンは思案し、何か思いついたように顔を上ると姿を消した。
読んでいただき、ありがとうございます!
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