第3話 救出
シンが町へ戻ると、リサの父親が血相を変えて走ってきた。
「シンさん、どうかリサを助けてくれ!」
「どうしました?」
事情を聞くと、先ほど大臣が現れリサを連れ去ってしまったという。
「大臣は、あなたにこれを渡せと」
シンが一枚の紙を受け取るとそこには場所が記されていた。
「大丈夫です、僕が必ずリサさんを連れ戻します」
シンは紙を握り締める。
その瞳には、珍しくわずかに怒りが滲んでいた。
シンが指定された場所に到着する。
そこは町からだいぶ遠くにある荒れ果てた大地だった。
周りには人がいる気配はないのでシンにとっては好都合だ。民を巻き込みたくはない。
「シンさん!」
リサは縄で拘束され、その横には勝ち誇った顔をした大臣が立っている。
とりあえず、リサが無事でシンはほっとする。
「リサさん、無事でよかった」
シンはリサに微笑んだあと、大臣へ視線を向けた。
「よく、来たな」
大臣は不適に笑う。
「リサさんは関係ないだろう、解放しろ」
シンの口調は今までのような温和さがなくなっていた。どこか冷たく、あの優しいシンからは想像できないできないような声音だった。
「ふん、おまえがいけないのだ。王に逆らうなど……少し腕が立つからと図に乗るなよ」
そう言うと、大臣はリサの首元にナイフを向けるが、シンは大臣を睨みながら微動だにしない。
周りにはいつの間にか屈強な男たちがシンを取り囲んでいた。
「シン、わかるな? もし手を出したら、……この女がどうなるか」
大臣のナイフの切っ先がリサの首に触れ、リサの首から血がわずかに流れる。
リサは震え、その目には涙が浮かんでいる。
どうする、攻撃すればリサが傷つけられてしまう、これだけの相手を交わし大臣の手からリサを救うことはできるだろうか。
考えている間もリサの顔はどんどん青ざめていく。
シンはリサを励まそうと優しく微笑んだ。
「リサさん、大丈夫、必ず助けます!」
「何を強がっている、この状況でおまえに何ができる……かかれ!」
男たちが一斉にシンに飛び掛かった。
迷っている暇はない、やるしかない。
覚悟を決めたシンの目つきが変わった。
そのとき影が動いた。
影は素早く動き、動いた先で次々と男たちをなぎ倒していった。
「な、なんだ、いったい、何が……」
大臣は何が起きたのかわからず、目を大きく開いて辺りを見渡す。
シンが影の正体を見て驚いた。
「リン……」
「久しぶり、シン」
長く美しい髪に陶器のような白い肌、切れ長の瞳に長い睫毛の彼女はクールにシンに微笑みかける。
リンは涼しい顔で、倒れた男たちを見下ろしていた。
「なんで……」
この状況が理解できず戸惑うシンにリンは言い放った。
「話はあとよ、あの子を」
リンはリサの方へ視線を送りシンに微笑む。そして残りの男たちをあっという間に倒していく。
大臣は予想していなかった事態に唖然としていた。
「なんだ? どういうことだ、仲間か?」
その隙にシンは大臣の目の前までやってきていた。
「何!」
「おまえはやり過ぎた」
大臣を睨むシンの瞳は深い闇の色をしていた。
「ひっ……」
大臣は恐怖を感じた。王に睨まれたときと同じ感覚。
殺される、もう駄目だ!
シンは一撃で大臣を気絶させる。
大臣はその場に倒れ、隣にいたリサが崩れ落ちる。
シンはリサを支え、問いかけた。
「大丈夫?」
「あ……はい」
優しく微笑むシンからは先ほどの恐さはもう感じられなかった。
大臣を睨んだときのシンはリサでも恐怖を感じてしまうほどの凄みがあった。
リサはほっとする、助かった以上にシンがもとに戻っていたことを。
「よかったわね、シン。でもあなたなら私の助けなんていらなかったんじゃない?」
敵を倒し終えたリンが余裕の笑みでシンの方へ歩いてくる。
「リン、助かったよ……でも、なぜここへ」
シンが真剣な眼差しをリンに向ける。リンはリサを横目で見た。
「その子送ってきて、そのあと話しましょ」
そう言ってリンはシンにウインクする。
次の瞬間リンは姿を消していた。
読んでいただき、ありがとうございます!
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