最終回:オレは超人HUGマン!(Cパート)

【バリバリバリバリズドドドグワァァァァン!!】

 轟くジラフ・サンダーの雷鳴。それは廃倉庫の狭い空間を満たし渦巻き、建物全体を地震のように揺るがせる。そして強烈な閃光はその場全ての者の視界を奪う。そう、技を放ったツヨシ自身のそれすら。

「うっひゃスンゲェな!眩しくって何にも見えねー!おいモフリーノ!!どこだ、ボウズは無事か?!」

「ゲホゲホ……ゴウ、わたしたちはダイジョブデース!……どうにか」

「よし、さぁて?どうなったアイツらは??」

 目を擦り擦り前方を見透かすツヨシ。目の眩みが治っても、見えてくるのは今度はもうもうと立ち込める煙と埃のカーテン。手でかき分けかき分け、ようやく。

「……やったぜ」

 コンクリ打ちっぱなしの上に機械油の類が滲みた真っ黒な床に、メリーが仰向けに倒れている。白銀のその体は電撃に焼かれてもなお、全ての輝きを失ってはいない。だがもちろん、それは完全に機能を停止しているようだ。糸の切れた操り人形のように関節を不自然に折り曲げながら、ただそこに横たわるのみ。

「ヤベェヤツだったが、こうなると何だかな……気の毒っつーか……」

 早速近づこうとするツヨシに。

〈ツヨシおにいさん、ゆだんはきんもつだプーよ。ちゃんとたしかめるプー〉

「……おし」

 彼にしては珍しく、その瞬間何かを飲み込むような声。だが素直にきりんちゃんに従うツヨシ。抜き足差し足で慎重に近づいて。

「んじゃこれでチョイと……」左腕からするすると伸びる、あの青龍の鞭。しばしつつきまわして反応を確かめる。だがやはりその用心は要らなかったようだ、メリーは微動だにしない。そもそも遠目にもわかる、その腕も脚も折れボディはあちこち物理的に大破しているのだから。自分自身のあの破壊光線のエネルギーを雷撃におしかえされて、それら全てをまともに浴びたのだ。さしもの強敵もひとたまりもなかったに違いない。

「うん大丈夫だきりん、完全にぶっ壊れてるぜ。おっと?なんかポロっと?」

 腹部の装甲版が外れて床に転がった。

「プー?なかになにかはいってるみたいだプーよ?」

 目ざといきりん。

「お?どれどれ?」

 そしてその言葉にツヨシは吊り込まれる。今や頃はよし、倒れた強敵の骸につかつかと近づく。見下ろす彼の目に入ったもの。

「おい、きりん?こいつは……」「プー……」

 ツヨシがその何かに手を差し伸べ、身を屈めようとした、その時!

「メリー様ぁぁぁぁぁぁ!!」

 数メートル先にうつ伏せで倒れていたマドーラの、それは悲痛な叫び。

「そこにいたのか」と一瞬ツヨシはちらと彼女に目をやると、またその視線をメリーに落とし、屈めた腰をさらに落として片膝をつき、その何かに手を伸ばす。

「やめて!メリー様に触らないで!!」

 だがツヨシは止まらない。、それをそっと拾い上げると、大事そうにそれを捧げ持つ。

「そっか。これが……お前のメリー、本物のメリーなんだな?」

 それは一体の古びたドール。高級品ではない、どこの玩具屋にもいつでも売っているような子供のための着せ替え人形。ナイロンの髪はクシャクシャ、金の色はすっかり褪せている。塩ビの顔にプリントされた瞳も頬べにもリップも擦れ消えかけている。ワンピースの赤は色褪せ、リボンの白はくすみ、そして何より。

 何故かペンチのようなもので切り落とされた片手片脚が痛々しい。切り口は古い、その破壊を加えられたのもかなり昔のことのようだが……いったい何故?ツヨシは本能的な身震いを一つ。それはきっと触れてはいけない秘密。ツヨシはなおしばしその人形をためつすがめつ、安否を確認して。

「でもまぁ良かった、焼けた跡は無ぇ。無事だよ。オレたちの技はコイツには通って無かった。マドーラ、お前にもな。あのが守ってくれたってわけだ……そら!」

 ツヨシは地に倒れうめくマドーラのもとにしゃがみこみ、その人形を差し出した。

「ンな顔すんなって!おら、返してやるよ。オレにゃやっぱり、サッパリわからねぇ、わからねえが……こりゃボウズのきりんと一緒だな。可愛がってたんだろ?抱っこでもしてやれよ」

「メリー様……メリー……メリーちゃぁぁぁぁぁん!!」

 人形に頬ずりしながら咽び泣くマドーラ。ツヨシはサッと立ち上がり困り顔で頭と尻を掻きながら。

「だから泣かれンのは苦手なんだって!どうすりゃいいもんやら?ま、放っときゃいっか。

 ……モフリーノ帰るぞ!ボウズも家に送ってやるぜ、母ちゃんのとこにな!」


「みつる!」「ママぁ!」

 再開を喜び抱き合う親子の前で、ふんぞり返って手柄自慢顔のツヨシとモフリーノ。商店街での今回の事件、元はと言えば自分達のせいという自覚は二人とも全くない。

「さて一件落着だな。オレたちもこれで退散しようぜモフリーノ。

 ……ボウズ!きりんを返すぜ。これからもコイツを大事にな」

「あの、おにいちゃん?またきりんちゃんとおはなししたくなったら、おねがいしていい?」

「あ?そりゃまぁ……仕方ねぇな、また今度な!」

「オ〜ゥ、わたしは大歓迎デース!きっと凄い研究データが取れる!あの、お母さまお母さま?お金のお礼とかは別にいいんで、時々坊ちゃんをお借り出来れば……あ痛!」

 小突くツヨシ。

「テメェは図々しいこと言ってんじゃねぇ!

 ……さていくぞボウズ、『HUG・オフ!!』」

 胸の前で合掌したツヨシが、両肘を水平に張りながらその掌を左右に引き離す。たちまちツヨシと分離して、その空間に実体化されるきりん。

「そら、ボウズ!」

「わぁい、きりんちゃぁぁぁん!」

 たちまちかじりついたみつる。新しい涙とヨダレで汚れていくきりん。

「ハハ、これでますます強くなっちまうなきりんのヤツ……」

 ふいと瞼の裏に重なり浮かぶマドーラとメリーの姿を、ツヨシはそっとため息で振り払う。あいつらはあいつらで何とかするだろうさ。

「んじゃお母さん、オレたちはこれで……」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!イヤ!誰か誰か!変態よーーー!!」

「え?あのお母さん?!」

「オ〜ゥ、これはうっかりデース、代わりの変身ぬい無しで変身解除したら。

 ……ゴウあなた今、フルチンぶらぶーらデースよ?」

「って、どわぁぁぁ!いやお母さんこれには訳がぁぉぁ!」

「お巡りさーんお巡りさーん!さっきみつるが誘拐されたんじゃと思って呼んでおいたお巡りさーん!!」

 みつるの母の悲鳴がたちまち、ご近所に響きわたる。そしてタイミングバッチリ、聞こえてくるパトカーのサイレン。

「モフリーノ、てめぇぇぇぇぇ!」「オ〜ゥ、わたし悪くないデース!」

 脱兎の勢いで車に飛び乗る二人、そして始まる、ハイエースとパトカーの派手なカーチェイス。そう、それがこの日のツヨシのラストバトル……あ痛!いやちょっとツヨシ君、登場人物がナレーション殴るのやめてくれるぅ?!

「うるせぇこのバカ!『この日』じゃねぇんだよ、こ・れ・で!今度で厄介事は全部最後だからな!!」

 アクセル全開、ハンドルは右に左に猛烈に切返し、パトカーの追跡を必死で振り払いながら、モフリーノはしかし減らない口。

「オ〜ゥ、でもゴウ?あのマドーラがまた攻めて来たらどうするデースか?」

「いやそん時はそん時だ!ただもうあのきりんにゃ頼れねぇ……オレがしきゃねぇンだろな……」

 ボンネット上で激しく揺れる、ベアー、ダック、ドルフィン。

 そう、オレはねいぐるみと共に戦う超人、縫力超人HUGマン!仲間たちを見つめながら、ツヨシは胸に決意を新たにするのであっ……ぐはぁ!!

「だから『新たに』じゃねぇンだよお終いだっつってんだろうがぁぁぁぁぁぁ!!」


 ※ ※ ここで、緊 急 速 報 ! ※ ※


「ニャハハハハハハハハハ!みーんなチビチビにしちゃうんだからぁ!」

「……や?なんだ?何が起こってるのぉ?」 

 ツヨシたちの前に現れた新たな敵!極小群体戦闘玩具「シルバニアン」、そしてそれを操るロリっ子マッドサイエンティスト「うさにゃーん」!

「やややちょっと待てコラ!!」

 そして敵か味方か?

「助太刀してもよろしいですわよHUGマン……いえツヨシ様ぁん♪」

 謎の仮面ダークヒロイン「レディ・マドーラ&リトルメリー」!

「いや正体隠す気あんのかテメェ?!」

「オゥノゥ!!ゴウはわたしのものデース……実験動物的に!!」

 やったねツヨシ、これってマッドサイエンティストクソ女ハーレムのフラグかな?

「どんなハーレム展開だ女のタイプが一種類しか無ぇし死ぬほどいらねぇぇ!!」

 劇場版「縫力超人HUGマン~強襲のシルバニアン~」!

 近・日・公・開!(効果音ドーン)

 さぁ、映画館で君も一緒に、レッツ・HUG!!

「聞いてねぇぞそんな話ィィィィィィィィィィ!!」


 ※ ※ お・し・ま・い♪ CMのあとはエンディングだよ♪ ※ ※


 エンディングテーマ「きりんちゃんのうた/ver.Pure」

 https://www.nicovideo.jp/watch/sm40918706

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縫力超人HUGマン(ぬいりきちょうじんはっぐまん) おどぅ~ん @Odwuun

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