最終回:オレは超人HUGマン!(Bパート)

「……さぁ坊や!見てご覧なさいこの可愛いお人形!可愛いでしょう?美しいでしょう?早くイイコイイコしなさい!!」

「うわぁぁぁぁん、やだよぉ、きりんちゃんがいいよぉ、きりんちゃんきりんちゃぁぁぁぁぁあん!!」

 亜ゾーン最後のアジト、それは港湾地区の老朽化した廃倉庫。取り壊しが決まったものの、オーナー会社の経営不振で建て替えの目処どころか取り壊しの費用もままならず。周辺の倉庫から壊れかけの木製貨物パレットや廃棄物を受け入れて悪あがきな経費の穴埋めだけに使われていたその場所を、マドーラは不法に使っていた。

 そう、すえたカビの臭いのうっすら漂うガラクタばかりの空間の一隅、そこだけが美しく清掃されていて、停められているのはあのメリーの棺を積んだ白い装甲車。モフリーノのハイエースと同じく、それは移動基地であり、最後の砦なのだろう。

「強情な子供だこと!あんな汚いぬいぐるみの何がいいの?

 ……いいこと?お人形は、ドールはね?この世で一番尊いオモチャなの!老若男女全ての人類がその寵愛をべきなの!だからお前も早く目覚めるのよ!」

「やだよぉ、おうちにかえしてよぉ、ぼくのきりんちゃんにあわせてよぉぉぉぉ!」

 みつる少年の頬に着せ替え人形の頭をグリグリと押し付けて迫るマドーラ、いよいよ激しく泣くみつる。

 ……その時!!

「よっしゃぁぁぁぁぁ!お前のキリンだな?今会わせてやるぜボウズ!!」

 ガラクタの山を派手なタックルで吹き飛ばしながら、ここぞとばかり現れたツヨシ。その馬鹿力は、すでにベアーと合身しているから。あのいでたちで腰に手を当て仁王立ち、大声で喝破する。

 潜入などという小難しい仕事ではなかった。倉庫には警戒装置の様なものは全く無かったのだから。モフリーノのナビに従い、ただ真っ直ぐ乗り込んだだけ。

(マドーラが油断するのもわかるデース)

 ツヨシの傍らの廃材の山に、半分身を隠しながら控えるモフリーノ。その顔色は不安半分。

(あの最後のドール、とんでもない性能デース。あれがあるならそれ以上敵への備えなんて必要無いデース。だからこうやって簡単に乗り込めたのデース。でも……)

 ならばこそ、問題はここからだ。その最強ドールに先程ツヨシはコテンパンにされたばかりではないか。

(本当に……のデースか?)

 ツヨシ達の出現に、束の間唖然としたものの。マドーラはすぐに不敵な笑み。

「まぁ……あなたたち、よくここがわかったこと!でも愚かね、その知恵があるなら大人しくしていればいいものを」

 案の定、余裕綽々といった風情だ。だがツヨシもまるで強気のまま。

「大人しくしてろ?いいや、そうはいかねぇ!さっきの借りはキッチリ返してやらねぇとなぁ。覚悟しやがれ!!

 ……でもな?まずそのボウズを放せ。勝負はそれからだ。それとも何か?人質がいなきゃオレとやり合うのは怖いか?そうだな、お前の大切なあのお人形がギッタギタにぶち壊されるかも知れねぇしなぁ?!」

 それは単純バカのツヨシに思いつく煽り文句ではない。考えて吹き込んだのは無論、モフリーノ。

(マドーラは、あのドールをデース。絶対の自信があるし、侮辱は許さないはず……だから!)

「まったく……!雉も鳴かずばなんとやら。如何にご寛大なメリー様とて、これほどの不敬者には!ふさわしき罰をお与えになられるでしょうね!

 ……さ、お前は一度あっちに行ったらいいわ。すぐにまた教育しなおしてあげるけれど!」

 みつるの背をドンと一突き、ツヨシたちに向けてどやし放つマドーラ。

(よし!)(挑発に乗ってくれたデース!)

 モフリーノがすかさず駆け寄り子供を抱きかかえ、さらに後方に引き下がる。後ろ流し目にその様子を確認しつつ、身構えるツヨシ。そう、あの白い棺の蓋は開かれ、強敵は半身をすでに起こしているのだ。

「ああメリー様、今一度お目覚めを、醜き不敬者に聖なるお裁きを!!」

「勝負だガラクタ人形!!いくぞモフリーノ……あれを!!」

「や……『やるでプー!!』えいっ!!」

「あっ!!それ、ぼくのきりんちゃん?!」

 ハイエースの車中で、モフリーノはツヨシから聞いていた。

(『いいか、こいつのしゃべりにはケツにプーがつくからな?こうなったら全部勢いだ、お前もノリノリでいけ、吹き替え間違えンな』だって……こんなんでいいんデースかゴウ?それに……??)

 モフリーノが、ルビコン川を前にしたカエサルのような気分でツヨシに投げ渡したのは、みつる少年の愛ぬいぐるみ・「きりんちゃん」。そして今それは、ツヨシの大きめの両の手のひらにガッチリとキャッチされた。

「よぉく見てろよボウズ!『ハグコンバート!ベアー!トゥ……?』

 ……えと?モフリーノ、キリンってのは英語でなんていうんだっけか?さっき聞いたけど?」

 前のめりにつんのめるモフリーノ、ガラクタの山に突っ込んで擦りむいた鼻先を片手でおさえながら。

「ジ・ラ・フ!!ジラフデース!!」

「オシわかった、もといィィィ!……『ベアー・トゥ・ジラフ!!』」

 今はベアーの顔が映し出されている胸のプレートに、ツヨシはそのキリンを押し当てた。たちまち彼はいつも見慣れた閃光に包まれる。いや、少し違う!モフリーノは見た、電光のような激しい追加エフェクト!その場の空気のカビ臭さがたちまち、陰陽のイオン電荷で掻き消える!

「何?!」「……ゴウ!!」「きりんちゃん?!」

 やがて、輝きの雲が晴れた中から現れたその姿。見よ!!

 頭には、キリンの角と耳のついた、黄色のモフモフキャップ。腰には黄色のモフモフビキニパンツ。あとは全裸。胸に抱いているのは、キリンと入れ替わってツヨシの体内からパージされたベアー、ツヨシは無言でそれをモフリーノに投げ返す。見えた胸のプレートには、ニッコリ笑うキリンのとぼけた鼻面。

 ……つまり見たところ、それはザ・いつも通り。いつものぬいぐるみに替わってコスチュームがキリンバージョンになっただけのようだ。

「ゴウ?!?いけるデースか?!」

 だがモフリーノの声は震えていた。

「……はぁぁ?何?それがどうかして?」

 一方マドーラはあっけにとられ、やがて嘲笑の微笑み。

 そして返ってきたツヨシの言葉は。

「大丈夫だ……いやモフリーノ、これなら!これならいけるぜぇぇぇぇぇぇ!!

 ……なぁ?どうだボウズ、カッコよく決まってンだろ??」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん、ぼくのきりんちゃんがぁぁぁぁぁぁぁ!!

 ……へんなおじちゃんにとられて、あんなになっちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「……あ、いやボウズ?大丈夫、大丈夫だから!元に戻せるし!あとでちゃんと返してやるから!……泣くなよオイ……まいったな……」

 なんか微妙にきまずい沈黙。十数秒後、最初に我に返ったのはマドーラ。

「……いやなにコレ?何この変な間?ああもう!メリー様がお待ちなのよ?わかってるのお前達?!」

 なるほど、見れば確かに、起動を済ませ棺から出てきたメリーがそこにただやるせなく突っ立っている。

「お、そっかそっか、そうだな、とりあえずおっぱじめてさっさと終わらせるか!

 ……てなわけで!遅まきながらまずは名乗り!

 天上天下唯俺最強!HUGマン・ジ!ラァァァァッァッフ!!

 ……さぁかかってこいキンキラ人形、今度のオレは一味違うぜ!!」

「何が?茶番はもう沢山!さぁメリー様お願い致します!

 ……クイーン・ストライク!!」

 たちまち襲い掛かる機械人形、その拳がツヨシに向かう。先の戦いでは、その一撃でひとたまりもなく吹き飛ばされていたツヨシだったが。

「……タイガァ・ブロォォォウ白虎爪戟!!」

 反撃に、飛んでくるメリーの拳に重ねるような右のパンチ、彼自身それは見たこともないような速さ、キレ、そして威力。激突!吹き飛ばされたのは今度はメリーの方だった。

「……何?!」「やった!!」目を剥くマドーラ、そしてモフリーノ。

「まさか?ならばこれよ、マジェスティ・ランス!!」

 メリーがどこからともなく取り出したのは、その身の丈の二倍程もある長大な槍。今の激突でおのずから開いた彼我の空間を素早く突き返す。これまた先の戦いでは、ツヨシはそれを見切ることも防ぐことも出来なかったのだったが。

「甘ぇ!!ドラゴン・ビュートォォォォォ青龍鞭打!!」

 ツヨシの振る左腕からさっと伸びる、青い光の流れ。それは龍の体のようにメリーの槍に絡みつき、たちまちもぎ取り締め付け粉砕する。

「何ですって?いったいこれは??」「すごいすごい、オッタマゲデース!!」

 女たちの驚愕ゲージは、共にレッドゾーン。

「かくなる上は……さっきは使うまでもなかったけれど、メリー様、どうか神罰を!

 ……シュプリーム・ブラスター!!」

 機械人形の胸の装甲が観音開きに開いた。そこに多数のレンズとアンテナのようなものが並んでいる。バチバチと一瞬何かがスパーク、たちまち打ち出されたのは無数の光弾!!

「おっとぉ!!だが効かねぇぜ!

 ……タートル・プロテクト玄武防壁!かーらーの、ヴァイパー・バイト毒蛇咬撃!!」

 ツヨシの体の前面に出現した、亀の甲羅のような形のスモークグレー半透明の盾。メリーの光弾は全てそこに当たり、一度吸い込まれるように消滅する。

 そしてさらに驚くべし、それらの光弾が盾の表面から再び、今度はメリーに向かって打ち返される!回避行動をとる機械人形、だが戻って行く光弾には誘導性能が。

 自ら放ったエネルギー弾にたちまち雨あられと撃たれる。流石にその装甲は強固、大きなダメージは無かったようだが。

「あぁぁぁぁぁぁ!!メリー様の御召し物がぁ!!」「Oh!モーレツデース!!」

 マドーラが着せていた豪華な衣装はずたぼろ、モフリーノは何故か昭和な反応だ。

 HUGマン・ジラフ。その圧倒的な、異次元の戦闘力。

「「どうしてこんなことが?」」

 二人の女マッドサイエンティストがシンクロして叫ぶ。いや、少なくともモフリーノの方は、半ばはこの事態を予想はしていたのだが……

 ハイエースの測定機材が捉えた、「きりんちゃん」の縫力。

(わたしがゴウに渡した変身用ぬいぐるみ、ベアー、ダック、ドルフィン。どれもただのぬいじゃない、HUGマンのために調整した特別品だったのに……あのキリンは!その100倍以上の縫力数値!だからもし合身出来ればそれは……でも!)

 そんなとんでもない縫力は、超人システム開発者のモフリーノにとっても完全に想定外だ。なのか?ツヨシと、自分が彼に埋め込んだメカは?彼女の抱いていた疑念と不安はそれだったのだ。

 しかしどうやら、事態は上手くいった。「きりんちゃん」と合身したツヨシ=HUGマンは、今まさに究極の縫力超人だ。

 ただしそれはまぁ、それとして。

 モフリーノにもまだ、そしてマドーラにはなおさら、まるでわからないことがある。

「いったい何なの、虎とか龍とか、亀とか蛇とか?」

「ゴウ?さっきからなぜ攻撃がキリンっぽくないのデース?」

「あぁん?んなこたぁ……オレにだってわかるわけねーだろがよ!初めてやってみたんだし……なんかな?こう……自然に出来ちまうんだよ!」

〈それはねプー〉

「「「「え?」」」」

〈きりんがみんなにおしえてあげるプー。おみみかっぽじってよくきくプーよ〉

 ツヨシの胸プレートから声が出た。

「「「「しゃべったぁ?!」」」」

 びっくり仰天の一同。きりんは一人泰然自若、余裕綽々な口調で。

〈きりんのひみつ。それは、ちゅうごくこらいのでんせつにあるんだプー。

 きたにあかいとり、すざく。ひがしにあおいりゅう、せいりゅう。にしにしろいとら、びゃっこ。みなみにくろいかめとへび、げんぶ。うちゅうをまもるせいなるけものたち、そのなかで、まんなかにいるのが、きいろいきりん。

 そう、きりんはせかいでいちばんえらいプー、だからいちばんつよくて、みんながちからをかしてくれるんだプー!!〉

「きりんちゃぁぁぁぁぁぁん!すごぉい、かっこいいよきりんちゃん!!」

〈みつるくんありがとプー。もうすこしまってて、いまたすけてあげるプー!〉

「……マジかよ!スゲェんだなお前、知らなかったぜ!」

〈おにいさんもありがとプー。いっしょにがんばろうプー!!〉

「おぅまかせろ、んでもって頼むぜ!!」

 きりんの語る一見壮大な神話にめっちゃ盛り上がるみつるとツヨシ。だがあとの二人はあんぐりと口を開けたまま。

「……いやいやいや?」「それはおかしいデース!」

「そもそもそれは中国の伝説で?」「キリンはキリンでもの話デース!」

 息ピッタリ、とうとう完全にシンクロしてツッコむクソ女コンビ。

「「そのキリンはアフリカの、あの首の長いジラフでしょぉ?!」」

「うっせぇ、ンな細けぇことはどーでもいいんだ!!フェニックス・ファイヤァァァァー朱雀轟焔!!」

「熱ぅ!」「アチアチデース!」

 ここぞとばかりモフリーノももろともにこんがり焼くツヨシ。もちろんこれまでのうさ晴らし。

「オレは馬鹿だ。小難しいことはわからねぇ、ぶっちゃけさっきのきりんの話もそんなにわかってねぇ!でもあんな理屈はどうでもいいんだ!!」

(ん〜……なんかすごくだいなしだプー、けど、ここはだまってるほうがよさそうプー?)

 空気を読むきりん。なるほど、どうやらツヨシよりは大分賢い。

「いいか?このきりんはな?このきりんは……きったねぇぬいぐるみだよ。そこのボウズに毎晩抱き枕にされてな?どこもかしこもシミだらけ、よだれなんだかハナミズなんだか……オネショなんだか?はっきり言ってボロい!」

「「ややや、それは流石にちょっとひどくない??」」

「うるせぇっつってんだろ!もっぺんファイヤー!!」

「「あつ、あっつ!!」」

(ん〜……そろそろなんかいったほうがいいプーか?もうちょっとがまんかな?)

 我慢強いきりん。ツヨシより大分人間が大分出来ている。

「だけどなぁ!それがいいんだよ!こいつには……その分だけ!ボウズの熱い思いってヤツが込められてるんだ!つまりボウズとこいつの友情パワー!んでそれが!今のこのオレに、この力を与えてくれてるのよ!!わかったかそこのクソ女ども!!」

「そんな……そんな非科学的な!ねぇそうでしょうあなた?!」

 モフリーノに同意を求めようとするマドーラ、だが。

「オ〜ゥ……人とぬいの魂パワーの交流……縫力の本質はすなわち絆、そして愛……エクセレントデース!!目ウロコキャストオフデース!!わたし今メッチャ感動してるデース!!」

「……ええええええ?ちょっとあなた、まさかこの私を裏切るの?」

 いや、別に味方同士だったわけではないぞ。

〈ハイハイさぁおにいさん、いいかんじにまとまったからここでフィニッシュだプーよ!〉

そしてちょっとホッとしたような声で、ボロが出る前にすかさず口を出すきりん。ナイスなアシストである。

「おぅ、いくぜきりん!縫力超人究極奥義ィィィィィィィィ……」

 そして最後の一撃のために力を溜めるツヨシ。しかし焦るマドーラもまた動く。

「そんな……そんな馬鹿な!そんな非科学的な精神論で、私の造ったメリー様の御力を超えられるはずがないわ……ああ、メリー様もう一度、今度こそ神罰を!!

 ……アルティメット・シュプリーム・ブラスター!!」

「くらえぇ!ジラァァァフ・サンダァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

「ホラやっぱりジラフだったデーーーーーーーース!!」

 緊迫感をそぐモフリーノのツッコミはこの際聞かなかったことにして。

 メリーが放った極大レベルのエネルギー光波、だが!ツヨシの頭のキリンの角からスパークしたまばゆい電撃はそれをすべてかき消し散らしながら、メリーとマドーラの元に襲い掛かる!!

 その一瞬。

 メリーはマドーラをかばい、電撃を全てその体に受け止めて……


※ ※ CMのあと、いよいよCパートだよ♪ ※ ※

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る