最終回:オレは超人HUGマン!(Aパート)
「くそ……まだまだ……ぐはっ!」
よろよろと立ち上がったツヨシ。いや、立ちあがろうとして、苦悶の叫びとともにまた地に膝を落とす。数歩先から冷たいレンズの視線で見下ろす機械人形。
ツヨシは知らなかった。予想することも出来なかったのだ。
シュプリーム・メリー。その名の通り、まさに最強。これまでの亜ゾーンのどのサイバードールも比較になどならない、桁がまるで違う。
(あのドール、なんてスペック……ありえないデース……)
いつもスピッツ犬のようにかしましく口の減らないモフリーノも、今はただ固唾を呑む。ベアーの剛力は、真正面から格闘でねじ伏せられた。ダックの飛行能力は、それ以上の異様な立体機動で封じられた。そしてドルフィンのスピードも、あっさりと超えられて。
最早ツヨシに、HUGマンに打つ手なし!完膚なきまでに叩きのめされた彼は、ついに冷たいアスファルトに倒れたのだった。
「おおメリー様、メリー様……なんと偉大なるお力……いいえ!こんなものではなくてよお前たち!これはメリー様のお力のほんの一端に過ぎないわ。止めを刺してしまっても良いのだけれど……これ以上メリー様のお手を煩わせるわけにはいかない。
メリー様の御寛大な御心のままに、ここは黙って帰してあげましょう。今後はもう二度と!その汚らわしくも薄汚い、なんかモッサリしたビンボくさい顔とカッコを私達の前で見せないことね!
……ささ、メリー様メリー様、どうぞお
と、最後になんかこうニチャッとしたマニア独特のヲタク笑いを漏らしながら、自分の操り人形であるはずのそれにかしづきつつカプセルに戻すマドーラ。
だがその時。
「ママー、ママー……ママどこぉ……」
ドールとツヨシの死闘のとばっちりで半壊した商店街、そこに通りかかったのは、どうやら親とはぐれ逃げ遅れた一人の子供。年の頃4〜5歳の坊主刈りにオーバーオールの男の子だ。そしてその胸に。
「「「ぬいぐるみ?」」」
ツヨシもモフリーノも、そしてマドーラも見た。その幼い少年は抱いている。大きさほぼ50センチほど、その少年にとっては運ぶのもやや大変そうな大きなぬいぐるみだ。
「「「なにアレ?何の?」」」
そしてわからない。何だか妙に気になるそのフォルム。形はほぼほぼ俵型。色は黄色だ。ところどころに茶色のブチがある。申し訳程度の小さい腕がチョコンと二本、太短い、申し訳程度に胴体とわかれた足がこれまた二本。
そして房のついた短い小さなシッポと、頭には先の丸まった二本の短い角。
「「「……キリン?」」」
そう。どうやらそれはキリンのぬいぐるみらしい。あまりにもブサイク、かつキリンにしてはデフォルメがきつすぎてわからなかったのだが……
「いやいやいや待て待て!今そこは気にしてる場合じゃねぇ!ボウズ逃げろ、ここから離れるんだ!今オレが……クソっ……」
一人先に我に返ったツヨシ。
そう、ここは戦場。何はともあれ子供を逃さなければ!焦るツヨシだが、彼の体は動かない。そしてまずいことに。
「うわぁん、なんかへんなおにいちゃんがいるぅ!」
「おい待てボウズそっちじゃねぇ!……マジかぁぁぁぁぁチクショウ!」
傷だらけになって道路に寝っ転がるモフモフ動物キャップの男に声をかけられたら、子供はそりゃ逃げる。しかも驚いた子供が助けを求めて逃げ走った先は、よりにもよってマドーラの下。
「何、この子供?迷子?どうでもいいけど私はお前になんか用は……あら?」
と、一瞬は子供を追い払おうとしたマドーラだったが、急に意地の悪いつくり笑顔に変わる。
「ねぇ坊や、あなた……そのぬいぐるみが好きなの?」
「うん。ママにもらったぼくのきりんちゃんだよ。だいすき。いつもぼくがだっこしていっしょにおねむするんだ」
「そう……でもいけない子ね……こんな!ぬいぐるみなんて不潔で野蛮なもの!さっさと捨てなさい!」
マドーラは男の子の胸からそのぬいぐるみをむりやりもぎ取って、倒れたツヨシに投げつけた。そしてたちまちギャン泣きになった子供の腕を獲って。
「いらっしゃい坊や、帝国のアジトでみっちり教育してあげる!!今から教え込めばさぞやドールの忠実な下僕に……さぁおいで!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん、やだよぉ、きりんちゃん、きりんちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
メリーを自動操縦で運んできた、霊柩車と装甲車のミックスのような車両。そこににマドーラは自分といやがる男の子をねじこんで、たちまちその場から走り去っていった。
「待ちやがれぇぇぇぇ!!」
完全敗北。ツヨシの顔はこれ以上ない悔しさに歪む。全身ガタガタの傷だらけ、その痛み。だがそれはさしたる問題ではない。
(ちくしょう……)
思えば。モフリーノにまんまとハメられて以来、なんだかんだと変身して戦って来たツヨシ。だが彼はいつもフマジメだった。やってられっかと思いながら、ヤケクソで今までヒーローの真似事をいやいや続けていたのである。だがそれでも彼は負けはしなかった。ヤケになったバカは強かったのだ。そしていつしか、そんな自分にちょっと浮かれていたかも知れない。
(でも!よりによってこんな時に……くそっ!!)
ようやく四つん這いにまで体を起こした彼は、右の拳で地面を打った。するとそこに、なにやらフニャリとした手応え。
そう、それはあの子供が残していった、あのブサイクなキリン。ツヨシはあらためて手にとってそれを間近に見る。
どうみてもブサイクだ。そもそもキリンという動物のアイデンティティはあの長い首だろうに、この俵型の体型でどうしてキリンなのか、キリンをつくろうと思ったのか?モチーフのチョイスに無理がありすぎる。どこにこんなもの売っていたのだろう?まぁ確かに、にっこり笑ったとぼけた鼻面に愛嬌があるのはわかるが。
そしてさらに、そのぬいぐるみはかなり年季が入っていた。可愛がられがすこぶる激しい。もとはパイル地のフワフワの毛並みだったようだが、抱かれ続けてすっかり毛先がより固まっている。どこもかしこもシミがあったり……よだれなのかハナミズなのか、多分両方。ほんのり香るのはオネショだろうか?
「毎晩抱いてた、か……そう言ってやがったな……」
その時!
(おにいさん、おにいさん。おねがいだプー)
「はぁ?え?何だ何だ?」
「……ゴウ?」
(みつるくんをたすけてプー)
「……プー?」
ツヨシはキョロキョロとあたりを見渡す。変な声が聞こえる。
「ゴウ?プーって何デースか?」
「あ、いやなんか声がな?……プーとかピーとか……」
(おにいさん、ここだプー、きりん、きりんだプー)
「……んぁぁぁぁぁ??ちょ、おま……しゃべったぁぁぁ?」
「えと?ゴウ?」
聞こえてきた声は、なんと!そのキリンのぬいぐるみからのものだったのだ。
(おにいさん、みつるくんをたすけてプー、きりんがちからをかしてあげるプー!)
「……奴らのアジトはわかってンのか?」
「さっき、あの車に発信機しかけておいたデース。感度良好、尾行は可能デース」
相変わらずこういうところは抜け目がねぇな、とツヨシは思いながら。
「で?出来ンのか?」
「測定結果から言って、理論的には……でも」
と、珍しく言い淀むモフリーノに。
「デモもストもねぇ、やるしかねえんだ!」
マドーラを追跡する、モフリーノのワゴンハイエース。運転席にも荷台にも、所狭しと積まれた謎の計器や電子機材、これは縫力超人の移動基地だ。助手席のツヨシの体は上半身半裸、各種バイタル計測用のセンサーが貼り付けられ、そして。
ツヨシに抱かれたキリンにも、それはいくつも付けられていた。
「モフリーノ、オレはな?テメェやあのクソ女みたいにな、おもちゃなんかにゃ興味無ぇ。ドールがどうのぬいぐるみがどうの……んなこたぁ知ったこっちゃねぇが!
でもオレはな?……ガキをいじめるヤツは許せねぇンだよ!!
あのガキを、みつるを助ける!んでもってあいつらを絶対ぶっ飛ばす!!それだけだ!!……やるぞキリン!!」
(まかせてプー!)
ファニーな語尾のその声は、ツヨシにしか聞こえない。モフリーノは不安に首を傾げつつ、言われるままにアクセルを踏み込んだ。
目指すは、神聖亜ゾーン帝国・最後の
※ ※ CMのあと、Bパートに続くよ♪ ※ ※
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