縫力超人HUGマン(ぬいりきちょうじんはっぐまん)

おどぅ~ん

最終回:オレは超人HUGマン!(アバン)

※ ※ おさらい:これまでのHUGマン! ※ ※


 脳筋単細胞、趣味は筋トレとジョギング、見た目はいかつくてガサツでムサ苦しいけど根はお人好しな青年・【縫野剛】。仕事帰りにハイエースに轢かれた彼は異世界に転生する……はずだった。

 だが彼は、頭のネジが三本ばかり(内訳は、人権意識・倫理観・ファッションセンス)ブッ飛んだ女マッドサイエンティスト、【モフリーノ川口】の手によって無理矢理改造手術され現世に蘇っちゃったのだった。

 かくして、ハーレム・無双・ざまぁやスローライフのチャンスの代わりに。ぬいぐるみを抱っこすることでそれと一体化し、未知の超パワー【縫力】を使えるようになった剛。モフリーノは彼に告げる。

「ゴウ!今日からあなたはスーパーヒーロー、【縫力ぬいりき超人HUGハッグマン】!サァ変身してその力で世界の平和を守るのデース!!」

 ……だが!!

「いや待てなんだこりゃ?!ふざけんな!!」

 ものは試しと思って変身した姿は、ぬいぐるみと同じ柄のマスクとモフモフ&ピチピチビキニパンツ一丁だ。それが無駄にムキムキ逞しいツヨシの肉体とマリアージュすれば、どこから見ても完熟のド変態。こんな格好でヒーロー稼業など真っ平御免と思ったツヨシだが……モフリーノはあいにく人の話を聞かないタイプの女。

「安心してゴウ、いいえHUGマン!あなたが眠っている間に、会社の退職手続きは済ませておいたカラ♪これでいつでも心置きなく戦えるデース!」

「オイ待て、勝手に何してくれたんだゴラァァァァ!つーか何遍も言わせんな、オレの名前はだ貴様ぁぁぁ!!」

 しかしあいにくもとから計画性が無く宵越しの金は持たない男だったツヨシ。おりしも安アパートの家賃を三ヶ月も滞納していた彼はその上突然の無職転落。モフリーノのちらつかせる札束の魔力には逆らえず、当面彼女に従うフリをすることにしたのだった。

(ま、まぁヒーローとか言ったって?アニメでもあるまいしそんな戦う機会とか場面とか無ぇよな……とりあえずこの金でしばらく食いつないで、隙を見てトンズラすれば……)

「オ〜ウ!この間ワタシが麻薬取引と見せかけてアナタの改造費とお給料のためのお金をチョロマカシたヤクザが取り立てにやってきたデース!!

 さぁ!戦ってHUGマン、愛と平和と正義のために!!」

「何シレっとやらかしてたんだてめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 かくして。最初の1クール程は地元のヤクザとモフモフパンツ男が抗争する、ビミョーに地味な展開が続いたのだが。

「1クール?おいそこのあらすじ喋ってるヤツ?1クールってなんだ?これはアニメかなんかなのか?『続いたのだが』ってなんだ?まだ続くのか?!」

 そこにテコ入れとして突如現れた悪の軍団。戦闘強化改造された着せ替え人形【サイバードール】を操る【亜ゾーン帝国】。

「いやいいよ……テコ入れとか要らねぇんだよそういうの……終わってくれよ……頼むから!!」

 ツヨシの嘆きもよそに、現れたこれまたヤバそうな女。

 亜ゾーンの設立者でやっぱりマッドな科学者だけど、何故だか別に女王じゃない【マドーラ越谷】。高笑いとともにうそぶいて。

「高貴でエレガントなドールは、全てを統べるおもちゃの女王。おおドールこそ!世界の支配者に相応しい……

 それにひきかえぬいぐるみ?なんてブサイクで幼稚なおもちゃなのかしら。ダニとかいっぱいくっついてそうだし。おお嫌だ、あんなもの根絶やしにしなくちゃ!」

「何勝手なことぬかしてるデース!!時々日に当てればダニなんてイチコロニコロ、フワフワ暖か!そして抱けばオキシトシンの泉湧く!

 ぬいぐるみのこの素晴らしさがわからないノータリンなんて、みんなコテンパンにしてやるデース……このゴウが!!」

「オレが?オレがやんのか?勝手に盛り上がンなクソ女どもがぁ!!」

 かくしてHUGマンの物語は第2シーズン「vsサイバードールズ編」に突入。亜ゾーンの送り出す「キラールカちゃん」「コンバットジュニー」などの強敵たち。だがヤケを起こしたバカは強い、ツヨシはモフリーノから与えられた三体のぬいぐるみ、パワーベアー・ウイングダック・スピードルフィンの力を借りて辛くもそれらを撃破していったのであった。

「まぁ自分でも否定出来ねーけど?!バカは余計だ黙ってろコンチクショウ!!」

 だがついに。追い詰められたマドーラは帝国最終兵器、究極のサイバードール【シュプリーム・メリー】の封印を解き放ったのだった……


※ ※ さぁよいこのみんな、ここから物語にフェード・イン! ※ ※


「ああメリー様、お許しを……私の力の至らぬばかりに尊き御身のお手を煩わせることになろうとは」

 決戦の場、商店街にマドーラが自動操縦で呼び寄せた真っ白な装甲車。天井が開くとせり上がって来たのは宝石と造花で飾られた、棺のような安置カプセル。

〈ルルルルル……〉

 歌声のような微かな作動音と共にそこから半身を起こした、メリーと呼ばれる一体のサイバードール。そしてその前に跪き、恭しく頭を下げるマドーラ。自分で造った機械人形に、創造主が額ずくその姿、その光景。

「……オイどうなってんだ?マドーラてめぇ、お前が亜ゾーンのアタマじゃねぇのか?」

 ツヨシは単純な男であり、その分常識的な感性の持ち主。困惑を隠せない。

「つくづく愚か者ね。最初に会った時に言ったはず。

『気高く尊いドールこそ、この世を統べるおもちゃの女王』。

 メリー様のこのお体を造ったのは確かにこの私。でもそれは!世界の運命が生み出した究極存在、そのイデアとしてのメリー様を、私が単に物質で現世に具現化したに過ぎない。私はただそのための端女……そう!

 このメリー様こそが!神聖亜ゾーン帝国の、そしてこの世界全ての女皇であらせられるのよ!ええい薄汚い下郎、わかったらお前もさっさとひれ伏しなさい!!」

「……いや〜?ハハ、全っ然わからねぇ。チンプンカンプンだ。なぁ?」

 と、傍らのモフリーノに同意を求めるツヨシ。しかし何やら彼女はいたく感じ入った顔だ。

「オ〜ゥ……なんてレベルの高いホビーマニア……ジャンル違いながらまさに、ヲタクの鑑……マドーラ、悔しいけどあなたを見直したデース!」

「あ?」今の流れで何か、感心すべきことがあったのだろうか?ポカン顔で頭をぽりぽりと二度三度掻いた後、ツヨシはマドーラに向き直る。

「やっぱりわからねぇ、さっぱりわからねぇが……わかった。要するにマドーラてめぇは、イカレ女ってこったな?なら決まりだ、これ以上は面倒見きれねぇ!てめぇも、そこのお人形さんも!まとめてお仕置きだぜ!!

 ……いくぜ熊ぁ!」

「オッケィアニキィ!!」

 モフリーノはすかさず、裏声で熊ボイスを吹替えながらツヨシにパワーベアーを投げ渡す。最初はいやいややっていたこの変身の段取りも、流石に最近は慣れてきた。いやむしろ、今日のツヨシはノリノリであった。これでようやく厄介事が一つは片付く、世界はともかくオレの生活が少しだけ平和になる……そう思えば心は踊る!!モフリーノが手持ちのラジカセで流す変身サウンドとBGMに乗って、ツヨシは胸をはだけ、埋め込まれた「ぬいコネクトプレート」にキャッチしたパワーベアーを押し当てる。そして叫ぶ。

【ハグ合身!ベアー・クロス・イン!!】

「……イン!イン!イン!イン……」

 モフリーノのだんだん小声になる口三味線エコーエフェクトと共に、これは本物の閃光がツヨシの体を包み、やがてその中から現れたのは。

「ヨッシャァ!剛腕無双、HUGマン・ベアー!!」

 熊の耳つきのモフモフマスク、両手にはキッチンミトンのようなモフモフグローブ(爪&肉球付き)、そしてビキニパンツ、あとは全裸。流石に知人でなくても見せられないツヨシのこの姿、だがこの時ばかりは、絶好調のハリキリガッツポーズ。

(とりあえずこれでようやくクソ女をぶっ飛ばせる、一人はな!!)

 ツヨシは調子に乗っていたのである。彼は知らなかった。

「ああ愚か者……度し難く救いがたい下等なぬいぐるみの使徒。滅びよ!

 ……神聖亜ゾーン帝国女皇、シュプリーム・メリー様の御威光に焼かれよ!」

 マドーラの声に音もなく、滑らかな動作で安置カプセルから立ち上がる機械人形。

 そう。ツヨシはまだのであった……!


※ ※ ここでCM、お話は続くよ♪ ※ ※

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