あとがき

 ここまで十ノ物語をお読みくださりありがとうございます。


 元々は昔書いたものを手直しして発表していこう、という軽い気持ちで始めたものだったのですが、次第に手直しの幅が大きくなって、いつの間にか一から描き直しになってしまいました。

 お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、タイトルの「十ノ物語」は柳田國男氏の「遠野物語」を捩ったものです。高校時代に初めて読んだ際の感動は今も胸の中にあります。

 怪談というものは、基本的にエンターテイメントとして楽しむのが良いと考えております。あまりにも気にしすぎてしまうと判断を間違える可能性がありますし、楽しいものも楽しめなくなる可能性があるからです。

 ただ「遠野物語」が教えてくれたのは、怪談はただのエンターテイメントではなく、「怪異の中に生活が閉じ込められている」ということです。怪談とは基本的に話者やそれを取り巻く人々の生活に根ざしています。生活に根ざしていない怪談は無いと言っても過言ではないでしょう。その時々の生活や文化を学問とした民族学という言葉がありますが、現代の怪談にもそれに近しいものがあります。

 そんな立派なものを書こうというつもりはないのですが、なるべく生活感だけは無くさないように意識はしました。途中で登場するA、B、Cという人物たちを通して、今の生活感を忘れないようにいたしました。

 作品の内容が創作かどうかはご想像にお任せいたします。実話や民話をベースに手を加えたものもあります。しかし「イケノサカの怪」だけは完全に実話です。祖母から母へ、母から私へと伝わったものをこの機会に形に残そうと思い書きました。

 掌編の集積ではありますが少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

 もし読者の皆様にお楽しみいただけましたら、新・十ノ物語でも書こうかなと思っております。



 この小説が私に遠野物語を教えてくれたA先生に届かんことを祈ります。

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十ノ物語 辻岡しんぺい @shinpei-tsujioka06

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