幕間-山島家の座布団氏、かく語れり。

 わたしは、山島家の座布団である。

 お値段ほどほど品質上々、の家具店で山島家にお買い上げされた。

 座卓氏とのセット価格でさらにお値引き、の四枚の座布団兄弟。皆で仲よく日々を過ごしていた。

 一緒に購入されたお揃いのカバーもかけてもらい、たまには太陽光にも当ててもらえて、時期が来たらクリーニングにもと、大切に扱ってもらえていたほうだと思う。

 そんなこんなでけっこうな年数を経て、そろそろお払い箱かということを家人の母殿と父殿が相談していることも知っていたが、まあ、それなりにありがたい座布団生ざぶとんせいであったなあとわたしたち四枚はしみじみとしていた。

 惜しむらくは、座卓氏が新しい座布団たちとうまくやれるかどうかを確認できないことであろうか、と四枚が思うくらいである。


 そんな頃。この山島家に、客人が見えたのだ。

 一人息子殿のお客さまだ。しかも、若い女性である。声も、外見も、なんだか輝いていた。わたしたちも、その輝きの恩恵で中綿が膨らんだような気がした。お客さまのために選ばれたわたしが、代表として一客いっきゃくの座布団となった。名誉なことであった。

 母殿は高級茶葉を用意し、息子殿にそれを託すと名うての菓子店に走って行かれた。まさに、疾走。帰還も早かった。


 この家の一人息子殿は、同世代の同性の友人はいないこともないが、いかんせん、異性の友人がいない。そんな男子だ。

 それでも、中学生のときはそれなりに同性の友人との行き来はあったが、息子殿が歩いて通える高校に合格したため、当時の友人たちとは交流が途絶えてしまったのである。

 何故なら、その高校はかなりの進学校なので、進学したのは息子殿だけ。

 ただ、勉強はもちろんたいへんだが、特に何か心配なこともなく、というのはよかった。

 しかしながら、やはりと言うべきか、毎日、学習以外は料理や裁縫や洗濯や掃除に勤しむ、そんな息子殿はわたしたちのような座布団や布団、さらには座卓殿たち家財道具からは人気があるが、異性からの人気は……難しいだろうなあというのがわたしたちの見解であった。

 まあ、十年後くらいになら期待ができるのでは、という感じだ。お相手が精神的に大人でないと、息子殿の魅力は伝わらないかも知れない。そんなふうにわたしたちは考えていた。


 ところが、着席されるまえにきちんと手前でかかとを立てた跪座きざから片膝ずつ上に乗せる姿勢できちんと正座になられるという美しい所作で座られたお客さまが現れたのだ。

 座布団であるわたしたちは、どよめいた。

 もちろん、座布団の叫びなので、座卓殿くらいにしか聞こえてはいないのだが。


 この美麗な御人は、息子殿を褒めてくれた。しかも、適切に。お美しいばかりか、本質を見てくださる方なのだ。

 しかも、息子殿に勉学を教えてくださりたいというお言葉まで。


「生徒会などには所属しておりませんので、こちらを」

 そう仰って御人が差し出されたのは、きっと、成績表というものであろう。

「……あの高校で、この成績……素敵が増えすぎて……尊い……」

 母殿の顔は、すごいことになっていた。

 多分、息子殿は話をあまり聞いていなかった。お客さまのお声が素敵だなあとかなんとか、考えていたのだろう。


 なんだかんだで、御人は家庭教師ということになられたらしい。めでたい。


 そして、なんと。

「母さん、リサイクルに出すかも、って言ってた着物あったよね。あれ、この座布団たちの座布団カバーにしてもいいかな。先輩、帰り際に座りやすい座布団だね、って言っていらして」

「あら、先輩さんが? 古いから逆に座りやすいのかしら。なら、そうね、そうして! ついでにほかの部屋の座布団もお願いしてもいい?」

「いいよ」


 ……どうやら、わたしたちはまだまだ、この家にお世話になれるようだ。


 これすなわち、あのきらきらとした、外見も中身もお美しい方のおかげである。


 そう考えるに至り、わたしたちはあの方へ、心からの感謝を申し上げたのであった。

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