Hello New ⬛️⬛️⬛️

フシギ・アルカディア

絶望の底 (Hello New ⬛️⬛️⬛️)

錆びれた風が吹く荒廃した都市。

建物は例外なく全て廃れており、生物など見る影もなかった。

強い腐敗臭と濁った空。道は整備されていた跡があるが、亀裂が入っていたり、穴が空いていたりと、まともに歩ける状態ではなかった。

穴には決まって黒い炭のような色をした液体が溜まっていた。

また、穴には決まって様々な形をした骨がぷかぷかと浮かんでいた。

その骨が、何の骨かは分からない。

あなたはそのうちの一つの穴に近づく。


ゆっくり、一歩ずつ。一歩ずつ。


穴までもう一歩というところで立ち止まる。


ーーーどうやら、今のあなたは正気ではないようだ。


もう何時間、何日、何週間。

あなたは水や食べ物を摂取していなかった。

しかし、いくら喉が渇いているからといって、得体の知らない液体に満たされた穴に身を投げるところだった。

あなたは渇いた唇を噛み、よろめきながらも前へと進んだ。

あなたは歩いている途中に朦朧とする頭で考えた。


これは、夢なのか?

夢でないなら、どうしてここに?

正気でないだけで、ここは自分が暮らしていた世界なのか?

もしこれが、夢ではなく、現実なのだとすれば……。


恐怖があなたを支配する。

あなたはそれでも歩みを止めない。

本能があなたに告げる。

この世界から抜け出せ。足を止めるな、諦めるな、と。

あなたは心のどこかでこう思っているだろう。


自分だけは助かる。


何の確証もないのに、なぜか自信だけはある。

しばらく歩き続けると、大きな穴を見つけた。

その穴は他のとは何か雰囲気が違うと、

あなたは感じることだろう。

知ってはいけない何かがそこにあるような、

まるで深淵をのぞいてるかのような、

そんな感覚だ。

大きな隕石か何かが落ちてできたような、とても大きく底が見えない穴だった。

いや、底が見えないのかはわからない。

もしかしたら先ほど見たあの黒い水が溜まっているのかもしれない。

試しに、あなたは落ちていた少し大きめの石を細い両腕を使い、投げこむ。

きっと、あなたは何かを期待していたのだろう。

女神様が出てきて、道を教えてくれる。

龍が出てきて、あなたをまともな場所まで運んでくれる。

しかし、そんなあなたの期待を裏切るように。

いや、当然というべきだろう。

何も、起こることはなかった。

それどころか、少しの音も鳴らなかった。

一つ分かったのは、この穴は音が聞こえないほど深いということ。

ただそれだけだ。

あなたは絶望し、天を仰いだ。

この世界に希望などなく、絶望のみが残されているのだと悟ってしまったのだ。

涙を流そうにも、体内に水分など残っておらず、泣くことすら叶わない。

もうあなたには、これ以上歩く気力も、

体力も、残されてなどいなかった。

あなたは考えた。


死こそが救済なのか。


そう考えてしまうのも無理はないだろう。

もう何も、生き残る術など残されていないのだから。

この絶望から抜け出すために、あなたは覚悟を決めた。そうするしか、なかった。

それが今のあなたにとって、唯一残された選択だったからだ。

大きな穴へ、一歩、また一歩と進む。

足が地面に触れなくなる。

その瞬間ふわりと体が軽くなる。

あなたは落ちていく。

とても大きく、とても深い穴へと。

数分にも、数時間にも感じた。実際は数秒なのかもしれない。

時間が歪んでいるような感覚に襲われる。

薄れゆく意識の中、あなたが最期に感じたのは、強い衝撃と全身に走る強い痛み。

そして…。




生という苦しみから解放されるという喜びだった。




Hello New Hole.

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