第3話 クソガキをわからせようとしてわからせられる大人

 出会い頭にゲームをしようと言われて困惑するレパロさん。本当に申し訳ないと思うが、しばらく付き合ってくれ。


 俺がレパロさんに提案したゲームの内容は以下の通りだ。

 一つ、俺が保有する魔力量を見て貰う。

 二つ、その魔力量の範囲内でレパロさんが扱える最も難易度の高い魔法を一つ披露する。

 三つ、それを俺がぶっつけ本番で再現する。

 四つ、もし再現出来たら今日の魔法の勉強は無しとする事。


「どう?」

「い、いえ、どうと言われましても」


 俺がゲームの説明を終えると、レパロさんはどうしたものかと困っていた。


「あの、アウラ様? なぜこのような事を?」

「私、無駄な事は嫌いなの」

「……無駄、ですか?」


 物腰柔らかな態度から一変、レパロさんはキツい眼差しを俺に向けた。

 その気持ち、分かります。俺もこんなのが目の前に居たらぶん殴ってやりたい。


「ええ、まず初めに言うと、私は別に魔法で大成しようなどとは思って無いわ。必要以上に学んだって使う機会は無いの」

「失礼ですが、魔法を行使する能力は将来必ず役に立ちます。必要以上なんて物はございません」

「そうかしら? 私、以前に父上と魔法士の大会を見た事があるのだけれど」


───あのレベルで良いの?


「……」


 その言葉にレパロさんは無言の圧を放つ。

 ほんっとうに申し訳ない。何様だって話ですよね。なんだこの六歳児って思いますよね。俺もそう思います。


「本当に、そう思ってるのね?」


 本当は否定したい。大会で見た魔法士達の努力を軽々しく扱いたくない。けど、


「ええ、そうだけど」


 これもチート転生者を世に晒さない為なんだ。許して欲しい。


「……分かりました、そのゲームを受けましょう。ただし私が勝ったらしっかり授業に取り組むように」

「ええ、構わないわ」


 あー、自分で言ってて腹立つわぁ。なんだこのクソガキ、ぶちのめすぞ。


▼▼▼


───あのレベルで良いの?


 その言葉に、私は一人の魔法士として怒りを感じてしまった。

 相手はまだ幼い子どもだ。失言の一つや二つ許せば良いだろうに……言い訳になってしまうが、大人びた振る舞いと理知的な喋り方をする彼女と話している内に、つい子どもであるという事を忘れてしまったのだ。


「それじゃあ行くわよ」

「いつでもどうぞ」


 上手いこと乗らされた気もするけれど、気にしない事にする。

 アウラ様の保有する魔力を見たけど、尋常じゃなかった。魔力量だけなら上級魔法も扱えるレベルだ。加えて基本属性である火、水、土、風、光の全てに適性があるときた。彼女が調子に乗るのも無理ない。


(ここは大人げないけど全力で行かせて貰うわ)


 だからこそ、今のうちに伸びた鼻を折って真面目に魔法を学ばせる。この才能を磨かず放置させるのは勿体ないからだ。


「ーーーー」


 詠唱を紡ぐ。これから放つのは、私が覚えてる魔法の中で最も高位の火属性上級魔法だ。

 詠唱にたっぷり数十秒使い、前方に巨大な魔法陣を敷く。そして、


「───『噴炎ボルケーノ』」


 轟音と共に、魔法陣から炎の柱が立ち昇った。


「……ふぅ、どうかしら?」


 素人目でも分かる高位の魔法だ。庭に少し焼け跡が残ってしまったけど、雇い主にはこの子の将来の為だと言って許しを貰おう。


(これを見てもまだ余裕でいられるかしら?)


 いくら才能があっても、いきなり上級魔法を行使するなんて無謀以外の何物でもない。


「……分かったわ」

「え?」


 しかし、予想に反してアウラ様は動揺一つ見せずに一言そう告げた後、


「ーーーー」


 すぐに詠唱を始めた。


(う、嘘よ、そんな馬鹿げた事)


 あり得ない事が目の前で起きている。そんな事あっていい筈が無い。

 けれどいくら否定しても、それは呆気なく実現される。


「『噴炎ボルケーノ』」


……その瞬間、私の中にあった魔法士としての誇りは砕けた。


▼▼▼


 俺は前世で様々な天才を見てきた。そんな俺の視点から見て、天才には大きく分けて二つのタイプがある。

 感覚的に正解を導き出せるタイプ、とにかく学習能力が高いタイプ。分かりやすく言えば感覚派と理論派だ。


 感覚派の天才は、常人には持ち得ないセンスがある。対して理論派の天才は、常人にも備わってる考える力が桁外れに高い。

 どちらが優れているか一概には言えない。というか一般人からして見ればどっちも優秀だ。

 そして転生して天才となった現在の俺は……能力的には感覚派だが、本質的には理論派だと思う。


 恐らく俺に与えられたのは感覚派特有の才能、つまりセンスだ。それ以外にも基礎スペックが爆上がりしてるが、それはおまけ程度なんだろう。

 しかし、俺の前世は天性のセンスなんて持たない凡人だった。その影響で考え方は理論派に近い物となっている。


 感覚派と理論派。二つの側面を持つ俺だからこそ、今回持ち出したゲームにも十分勝算があると考えた。


 そして、その考えは正しかった。


 詠唱するレパロさんの動作、駆け巡る魔力の流れ、展開される魔法陣に刻まれた紋様、それら一つ一つを観察し、そこに込められた意味を解析する。

 途轍もない労力だ。脳をフル回転させてようやく出来るかどうか。昨晩に魔法の基礎知識を詰め込んで無かったら無理だったろう。……あ、ヤバ、鼻血出てる。


───いける。


 レパロさんから顔を背けて鼻血を拭きながら、俺は脳内でそう判断を下す。

 そこからは言うまでもないだろう。俺は見事に魔法の再現を行い、その日の魔法の勉強をキャンセルさせた。


 翌日、親父からレパロさんが家庭教師を辞退する事を伝えられた。本当に申し訳ない事をしたと思う。化け物に遭遇したと思って吹っ切れて欲しい。


……うん、二度とこんな真似はしないようにしよう。


─────────────────

【アウラの見た目】

銀髪赤眼の幼女。髪は肩まで伸びたストレートロング。鋭い目付きは父親似。めっちゃ無愛想。胸の将来性有り。

【シエラの見た目】

紺色の髪と目をした女性。髪はショートカット。基本的に無表情。スレンダーな高身長貧乳。

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