第4話 趣味なんてなんぼあってもいいからと誰かが言った気がする
レパロさんが家庭教師として来て即辞めてから早一年、あれから俺は親父に魔法を学ぶよう言われる事なく、日々をのんびりと過ごしていた。
ただ前世とは真逆の生活をしてるせいか、体がムズムズしてしまう事が度々ある。それで一度、前世で一番頑張っていた剣道のリベンジとして剣術の修行をしてみたのだが、あっさり過去の自分を越えてしまいバカらしくなったのでやめた。
その時気付いたのだが、どうやら俺は前世の頃から才能を求めてなかったらしい。
俺の目標は、あくまでも天才への勝利。才能に格差があっても努力すれば天才相手でも勝てるというのを証明する事だ。
だから才能なんて貰わなくて良かったと言えば、なんとも贅沢な悩みに聞こえるだろう。しかし、俺にとっては深刻な悩みだ。
俺は転生して貴族になったり天才になったり、女の子になったりしたが、中身はずっと前世の俺のままだ。才能を得た今世で何かを成し遂げても、結局前世の頃じゃ無理だったのでは? そう思ってしまう。
だからこそ、俺は今世で頑張る事が出来ない。だってそれで何か大きな事をあっさり成し遂げたら、前世の俺の頑張りはなんだったのだと思ってしまうからだ。
そんな俺だが、何もしない訳では無い。何もしないのってつまらないからな、将来に関わらなそうな事は色々やっている。いわゆる趣味というやつだ。
ダンスに、音楽に、手芸。他にも狩猟なんかに手を出そうとしたけど、親父からはしたないと言われて止められた。性差別はいかんと思うよー親父。
色々な物に手を出してきたが、どの分野でも俺は数ヶ月で一流のレベルにまで達していた。特に手芸で作った服なんて、斬新で画期的だとデザイナーの人から特許をくれなんて言われるほどだ。
しかし作った服が前世のをパクった物なので、全力で断らせて貰った。別の世界の話とは言え、俺が考案した訳じゃないからな。というか前世の知識で金稼ぎする気は一切無いし、その服も自室に封印する事にした。
「ねえねえアウラちゃん」
封印してから数日後、俺の部屋に母さんがやって来た。
母さんは何というか能天気、いやお気楽……とにかくほわほわしてる人だ。
「なんでしょうか、母上」
貴族、それも侯爵という高い身分の人とは思えないほどほわほわしてる母さんは、俺としても接しやすくて心が休まる。
「アウラちゃん、この前ドレスを作ったでしょう?」
「はい」
ちなみに俺が作った服は、とあるアニメキャラが着るゴスロリを模した物だ。
「あれ、私にも作って欲しいの」
「あれをですか?」
俺は母さんの大きく育った胸を見ながら言う。……似合うかな?
「ええ、可愛いんだもの」
「……分かりました」
まあ、これも親孝行だと思って作るとするか。売らない範囲でなら俺も何かを言うつもりは無いし。
どんなゴスロリが母さんに似合うのかなと悩んでいると……シエラがこちらをジッと見つめてる事に気付いた。
「シエラ、どうかしたの?」
「っ! い、いえ、なんでもございません」
「もしかして、作って欲しいの?」
「……」
何も言わないが、モジモジと恥ずかしそうに頬を赤らめるのを見て、俺は察する。
「……あなたのも作ってあげるわ」
「っ! あ、ありがとうございます」
シエラからもなにかと世話になってるしな、これを機に少しでも恩を返していこう。
「ところでアウラちゃんはアレ、着ないの?」
「着ません」
「可愛いと思うわよ?」
「趣味じゃないので」
「えー? 自分で作ったのに?」
俺の場合、作る事そのものが目的だからな。中身野郎な俺がゴスロリ着ても嬉しくない。
それから暫く母さんとシエラのゴスロリを作り、それをプレゼントしてから数日後の事、
「その、お嬢様。もう一度頼みたいのですが」
今度はシエラを通じて、ウチのメイドにも作ってあげて欲しいと言われた。
どうやらシエラがゴスロリを着て楽しんでた所をメイド達に見られ、自分も着てみたいと言ったそうなのだ。で、シエラは無理を承知で俺に頼んだという訳だ。
「いいわよ」
形はどうあれ、彼らは俺に関わろうとしてくれてる。それを無碍にしたくは無い。
という事で再びゴスロリ製作に勤しみ、それらをプレゼントした。すると何人かのメイドからの視線が以前より和らいだ。
こんな風に少しずつでも使用人達から怖がられないようにしていこうと、そう思った。
▼▼▼
時は流れ、俺は九歳となった。
相変わらず趣味人な生活を送っている俺の最近のマイブームは、チェスである。
ハマったきっかけは色々あるが、一番の理由は近くにチェスの達人が居た事だろう。
俺の親父はチェスがめちゃくちゃ強く、俺の才能を持ってしても中々勝てなかった。だからこそ久しぶりに勝ちたいという気持ちが生まれ、のめり込んだ。
まあ最近になって勝ち越して来たので、そろそろチェスも引退する頃合いだろう。
けれども一度ハマると更なる高みを目指したくなるもので、俺はチェスの強者を求めて街へやって来た。
いつも街に来る時はシエラと何人かの兵士を連れているが、シエラは兎も角、武装した兵士を連れてたらチェスのお相手さんもまともに集中出来ないだろう。あと、俺自身も気疲れする。
なのでシエラに協力して貰い、シエラと二人でお忍びで街にやって来た。なんだかサッカーの自主練の為に夜中学校へ忍び込んだ事を思い出す。
「いいですかお嬢様? 寄り道する時間はありませんからね?」
「分かってるわ、満足したら帰るから」
あの時は警備員に見つかってこっぴどく叱られたが、今回は俺の高速回転する頭脳で入念に準備したから大丈夫だろう。
「……ここね」
チェスはこの世界だと貴族のみならず庶民の間でも流行ってるメジャーなボードゲームだ。故に、チェスクラブのような施設が建っている街も珍しくない。
(さあ、頼むから俺を倒せるような相手が居てくれよ)
なんて思いつつも、親父以上の実力者なんてそうそう居ないだろうなと薄々勘付いている。
まあ強者が居なくても問題ない。その時は色んな人とプレイしてチェスを満喫すれば良いのだから。
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