第2話 チート主人公アンチ
前回サラッと流したが、俺は転生者である。
転生先は剣と魔法のファンタジー世界、そこのとある侯爵家の長女として生まれ変わった。ちなみに前世は男なので、TS転生である。
異世界転生した時は、それはそれは驚いた。現実を受け止めるのに丸一日費やした程だ。
そして異世界転生した事実を素直に受け止めた後は、前世で成し遂げれなかった事のリベンジを今世で果たそうと誓った。
天才に打ち勝つ。その為に全力で努力しようと思い、魔法の特訓をして……俺は自分が天才になっている事に気付いた。
それからは色々あった。ウチの子は天才だとはしゃぐ母、なにやら難しそうな表情を浮かべる父、ヤベェのを見るような目を向けてくる使用人達。
正直、今まで優しくしてくれた使用人達がよそよそしくなったのはキツかった。ただ俺のお守り担当であるシエラだけは以前と変わらず接してくれたお陰で、そこまで思い詰める事は無かった。シエラには感謝してもし切れないな。
とまあ環境がガラリと変わった訳だが、五年も経てばすっかり慣れる物で、相変わらず使用人達から怖がられてはいるが元気にやっていけてる。
……ただ、このところ俺は親父に困らされていた。
「アウラ」
シエラと一緒に屋敷の庭を散歩していると、親父が後ろから声を掛けてきた。
「なんでしょう、父上」
俺は、また例の話なのかなーという煩わしい気持ちを隠し、努めて冷静に返事をする。
「魔法を学ぶ気は無いか?」
案の定、例の話だった。
「……父上、私は魔法を学ぶ気はありません」
「だがいずれ学ばなければならない」
確かにそうらしいな、貴族は魔法を学ぶのも義務教育の一つだと。だが親父、俺は知ってるんだぞー?
「魔法を師事する家庭教師がつくのは、早くても十歳からが通例だと聞いております」
「……どこで聞いた?」
「シエラからです」
俺がそう言うと、親父の目線がシエラの方へと向かう。
「申し訳ありませんルドルフ様。こういったお話は事前に伝えた方が良いと思い」
処罰は如何でもと言うシエラ。仮に親父がこれでシエラを罰するようなら、俺は全面的に抗議する所存である。
「……いや、構わん。確かにその通りだ」
まあ親父がこんな事で怒鳴り散らす訳無いわな。この人、怖いけどそういう所は冷静だし。
「だが何事にも例外はある。アウラ、お前の才能を時が経つまで放置させておくのは勿体無い」
普段は冷静なのに、なーんでここだけ頑固になるのかなあ?
「父上、私は既に複数の家庭教師がついています。これ以上学ぶ事を増やすのは負担になります」
流石にこれだけ言ったらこの親父は納得してくれるだろう。
「そうか、なら読み書きと算術の家庭教師には今月いっぱいで終わらせるよう伝えておく」
と思ってたのになんでぇ!?
「いいのですか?」
「以前聞いた話だが、どうならお前は既に読み書きと算術を終了課程まで終わらせてるらしいな」
「……」(ギギギギクゥ!?)
悲報、サボっていたのがバレてた。
「もう何を教えたら良いのか分からず困り果てていたそうだ、彼らも喜んで受け入れる事だろう。……どうだ? これで負担とやらは減ったか?」
「……」
ダメだ、完全に墓穴を掘ってしまってる。……かくなる上は、
「分かりました」(あの手を使うか)
▼▼▼
お嬢様が魔法を使って以来、使用人達のお嬢様を見る目は変わった。それは概ね予想していた通りの物で、彼らはお嬢様を避けるようになった。
かつての自分を見ているようでやるせない気持ちになってしまうが、こればかりは仕方ない。私だって、少し間違えれば彼らのようにお嬢様を畏怖していたのだから。
お嬢様の親であるルドルフ様とレイラ様は、少し接し方に変化がありましたが悪い方向には行きませんでした。
レイラ様は献げる愛情をより深く、ルドルフ様は表面上だと伝わり難いですが期待感を。レイラ様は元々寛容な方でしたし、ルドルフ様も感情に左右されない方なので、悪いようにはされないだろうと予想はしていました。
ルドルフ様にレイラ様、お二人が変わらぬ愛情を注いでくれたお陰でしょう。お嬢様は健やかに育って下さりました。
……ただ、一つ困った事がありました。
「……お嬢様」
「どうしたの? シエラ」
お嬢様は歳不相応に落ち着いた様子で、コテリと首を傾げて返事をする。その声は淡々としており、初対面の方から見れば冷たい印象を抱くだろう。
しかしそれは間違いだ。お嬢様は無愛想な姿勢が常ですし、大人びた振る舞いも聡明過ぎるが故だ。だからこそ先ほど首を傾げた時のように、時折見せる仕草が愛らしく映るのだが。
「先ほどのお話、お受けして良かったのですか?」
「読み書きと算術の件が知られたからね。あの件を出されたら断りづらいわ」
もう少し上手く隠せば良かったわ、そう言ってお嬢様は反省した様子もなくため息を吐いた。
「ですが、本当に大丈夫なのですか?」
お嬢様は何事にも全力を出そうとしない。いえ、出す時もあるのですが、それは後で楽が出来るからという理由である。
全力で取り組めば誰よりも上達できる。それは確信しているのですが、お嬢様は決してしようとしません。
「お嬢様は、あれほど魔法を学びたがらなかったでは無いですか」
そんなお嬢様は、特に魔法に対する忌避感が強かった。
「いいのよ。どのみち避けられない事だから」
「……っ」
達観したように言うお嬢様に、私は思わず悔やんだ。
お嬢様が魔法を使おうとしない理由は……恐らく、あの出来事が原因だ。
お嬢様が初めて魔法を使った日、あの日を境に使用人達のお嬢様を見る目は変わった。
隠しきれない畏怖の念、それを彼らは常にお嬢様に向けていた。
聡明なお嬢様の事だ。きっとその事を覚えてるんだろう。だからそのキッカケとなった魔法に忌避感があるのだ。
そしてそうなるキッカケを作ったのは、私だ。
あの時、私がきちんと目を離していなければ、お嬢様は魔法を使わずに育った筈だ。
ある程度成長して、その時に魔法を使っていれば、今のように恐れられる事も無く、皆が素直に才能があると称賛してくれただろう。
そう考えると、お嬢様の魔法を学ぶ機会を奪ったように思えてしまい……強く後悔してしまう。
「本当に嫌だったら、私を言って下さい。なんとか交渉して見せますから」
「……そう」
ありがとう、と。そう言ってお嬢様は薄っすらと笑みを溢した。
▼▼▼
俺は自分が天才だと分かって以来、なるべく努力をしないよう心がけた。
俺には分かる。この才能は決して生まれ持っての物じゃない。きっと俺を異世界転生させた神とかが居て、そいつが与えた物なんだろう。そうじゃなきゃ前世であんなに自分が凡才な事に悩んでたりしない。
……与えられた才能で努力をする。そしたらきっと、俺は歴史に名を残す偉人になるんだろう。それぐらいの才能が俺にはある。それは嫌だ。
俺は天才が嫌いだが、与えられた力でのし上がる奴も同じぐらい嫌いだ。苦労して手にした力なら別に良いが、こんな風に異世界転生するだけであっさり手に入れた才能なんてクソ喰らえだ。
だから俺は、この世界で地味に生きようと決めた。手にしたチートをほどほどに使って、適当に生きる。
「今日からアウラ様に魔法を教えます。レパロと申します」
「……ねえ」(だからすまんな、折角来てくれた所悪いけど)
「はい?」
魔法チートで異世界無双なんて嫌だからな。
「私に魔法を教える前に、一つゲームをしましょう」(ちょっと心、折らせて貰うわ)
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