ハイスピード・成り上がり&ざまぁ


その男の名は【チョーハン】、元冒険者であった。

幼少期は都の剣術道場で名をはせたこともあったが、貴族に喧嘩を売ったことで、就職は台無しに、どこも雇ってくれず結局冒険者になったという過去を持つ、

だがしかし、だれでも年を取るもので、30から素早い動きができなくなり、35で金のための遠征が厳しくなった。

そうして、40を過ぎたころには冒険者を続けるのに限界を感じ、とある村で用心棒をすることになった。

村での仕事はそこそこおいしかった。

この村は比較的平和な村であり、週に2、3度村のはずれにある畑にスライムやイノシシが忍び込んでくるぐらいだ。

それゆえに、スライム退治の仕事だけは引き受け、すぐに討伐するために相場よりほんの少し高めに料金を設定。

まぁ、富豪とまではいかないが、毎日シードルを飲めるくらいの生活はできていた。


「うおおお!俺様についてこい!」


が、それもノールがスライム退治を覚えるまでだ。

ノールは、身寄りのない子供やらごく潰しを集めて、今まで彼が独占していたスライム退治を始めてしまった。

幸いにも、チョーハンの仕事が完全になくなることはなかったが、それでも収入は目に見えるほど減ってしまったのだ。


「おい!狩人のじいさん!

 暇なら、山狩りを手伝ってくれよ!」


しかも、彼にとってそこまでおいしくない、子供の引率などという面倒な仕事を押し付けてくるのだ。

断ろうにも仕事がないため、山狩りでの肉が真面目に収入にカウントできてしまう始末。

それで感謝されるのはうれしいが、彼としては山狩りなどの膝に負担がかかる仕事がしたくないので、この村で仕事をしているのだ。

それなのに、こんな田舎で山狩りの仕事をさせられるなど、実に屈辱的ではなかろうか?


「おお!スゲー!!スライムを一撃で!

 やるじゃねぇか!狩人のじいさん!」


しかも、ノール自体もかわいげのないガキと彼は認識していた。

まぁ、こちらを尊敬の眼で見ている事やら、仕事ぶりを褒めくれることは悪い気はしないが、こちらを狩人の爺さん呼ばわりしてくる点はいただけない。

ほめるなら、爺さんじゃなくてお兄さんと言えや!

ともかく、彼はノールのせいで、彼の冒険者余生はめちゃくちゃにされてしまったと考えたわけだ。



「……はぁ?ノールが?風車を?」


だからこそ、それは好機だと思った。

その時村には、【ノールが魔よけの風車を壊した】という根も葉もない噂が広まっていたのだ。

対して、この時期のチョーハンといえば、ノールの自警団の顧問になるという提案をめんどくさそうなので断ったら、スライム討伐の仕事がさらに減少。

正直にいえば、ノールに対していつも以上に苛立っていた。


(風車といえばあれ……数日前、深夜にノールの女と何人かの男が風車に入ったあれか。

 浮気かなにかかと思ったが……これは、面白くなってきたな!)


だからこそ、彼はその噂を否定も肯定もしないことにした。

彼は風車壊しの犯人がノールでないと知っていたが、あえて言わないことで、ノールの村での地位が下がることを目論んだ。

そうすれば、ノールが提案した自警団の話はなしになり、村の自衛能力は減少。

さすれば、再び自分にスライム討伐の仕事が回ってくるだろう!

そうして、結果的には彼の目論見通り、その噂はやがて真実として村で扱われるようになった。

ノールはその一軒で村の支持を失い、没落することになった。


「……おい、爺さん、邪魔するぜ」


しかし、その代わりに、その日の深夜に、ノールが武器を枕元に持って立っていた。


(あ、儂死んだわ)


さもあらん。



――で、1年半後。


「は~!!酒が上手い!!」


なんとそこには、村はずれの小屋で再び酒をチョーハンの姿が!!

さて、結果的にいえば彼はあの後も無事であった。

1年半前のあの時、枕元になっていたノールのガキはただ戦い方を教わるため、チョーハンが起きるまで待っていただけだった。

で、その話は彼は素直に了承した。

断って殺されるのもばからしいので、ノールに家事掃除狩りの手伝いをすることを条件に、適当に戦い方を教えたわけだ。

で、1年たち、彼が手慰みで教えられる範囲は終了し、ノールはチョーハンの、いや村を出ていくことに。

そうして、再び二日に1度のペースでスライム狩りをする、平穏な冒険者余生が戻ってきたというわけだ。


「お~~い、ノール!

 つまみを……って、いねぇか。

 いや、まぁそうだよな」


そうやって、平和な余生が戻ってきたことで、彼は考える時間が増えた。

老後のこと、酒の事、なにより1年間世話をしたノールのことについてだ。

別に彼とノールは血縁関係も何もあった物ではない。

が、それでも1年間共に過ごせば情くらい湧いてくるものだ。

ノールはここを出ていくときに、復讐に燃えていたが、今もそれは変わらないのだろうか?

いい出会いやいい娯楽があっただろうか?

怪我や病気はしてないだろうか?

悪いやつらに騙されてないだろうか?

様々な妄想が脳裏をよぎり、口の中から酒の味すらなくなってしまった。


「……くっそ……こんな性分じゃねぇのによぉ」


気が付けばほとんど酒が味わえないまま、酒瓶が空っぽになり、飲んだ量は変わらないはずなのに、損をした気持ちになる。

なんとかここから出ずにノールの様子を確認する方法を考えるがわかるわけもない。

当初はノールがいなくなれと願っていたのに、いなくなったらいなくなったで今度は安否が気になり寝れない。


「今度会ったら、ガツンと言ってやんなきゃな」


会う予定は当然なくが、そのような口を吐きながら、彼は平和に冒険者余生を過ごすのであった。



――なお、しばらく後


「おらぁ!じじぃ!さっさとスライム退治しやがれ!!

 2日に1回とか舐めてんのか!!」

「また値上げしやがって!!

 どうせあの狩りのやり方だと、足は一本ぐらいなくてもいいだろ?

 なら、適当に夜襲して、足の一本や二本、追ってしまえば……」


その余生はあっさりと崩された模様。

原因は、スライム被害が増大。

チョーハンは村のスライム退治の依頼を独占しようと思ったが、そもそも彼の戦い方では、一対一の居合がメイン。

複数のスライムを同時に相手をするのは、基本無理。

それゆえに、スライムの退治速度よりもスライム被害の方が大きくなり、結果として、村は困窮。

自分に無理やり依頼をさせようと、家の前に自警団という名のチンピラが張り付く始末だ。

なので、彼は早々に村に見切りをつけ、怪我をする前に夜逃げ。

仕事を探すためにも、ノールが向かったという王都へと行くことに決めたのでした。



――で、さらにしばらく後。


「ぬ~はっはっはっは!

 もっと酒を持ってこ~~い!」


なんと、そこには都の酒場で酒を楽しんでいるチョーハンの姿が!

あの後街について、真っ先に向かったのは、かつて自分が所属していた冒険者ギルドであった。


『あっ、久しぶり。

 狩人のおじい……いや、おにいさん!』


で、そこで偶然大きくなったノールを再開し、(ノールの奢りで)酒を飲みかわし、そのついでに仕事の紹介してもらったのだ。


「ぬはははは、やっぱり都会はいいなぁ!

 治癒魔法で長年の持病も治ったし、飯も酒もうまい!

 それにノールの師匠というだけで金ががっぽり入ってくる!

 ぐふふふふ、ここまで苦労した甲斐があったわい!」


現在は【夜明けの光団の教導役】としての、剣の振り方と自慢話をして、金をもらえる地位を獲得したのだ。

おかげで、通常なら高い金を払うことでし受けることのできない、治癒の魔術を受けることができたし、力強く剣を握れる。

さらには、酒や飯も以前よりうまいものを何不自由なく食べられるようになったと、いいことずくめである。


「ノールの昔話が聞きたい?

 いいだろういいだろう、儂が話してやる!!」


もっとも、彼がノールの昔話をするとなぜか自身がノールを昔から教導していたかのように話すのだが。

かつては疎ましく思い、むしろ逆に自分の技を盗まれないように隠していたのだが、なぜか彼の話では親切丁寧手取り足取り教えたことになっている。

そこはまぁ、ご愛敬という奴だろう。

かくして彼は、無数の弟子に囲まれながら、都での冒険者余生を楽しく過ごすのであった。


「がはは!勝ったなこれは!」


もっとも、彼は知らない。

その後、かつての村の後始末という名の魔王退治。

功績を讃えての身分に合わない婚姻話に、無茶な礼儀作法。

さらには、そこから抜け出し新領地での開拓事業など、余生のつもりがとんでもない冒険に巻き込まれることになるのだが……それはまた、別話である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ごく普通の転生冒険者の一生 どくいも @dokuimo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ