『オフィーリア』と九相図が浮かぶ凄みある短編

この短編は一つの死体から『私』が無常を感じ取る姿を描きます。

獣道でそれを発見した時の『私』からは獣性が確かに漂い、人間が潜在的に持っている獣性は残酷でどこか魅力的。
それは『私』の死体への感情と重なって私には感じられました。

時が経ち『私』は同じ死体への認識が変わります。
『私』の中で死体は人間になるのです。

仏教では煩悩を遠ざけるために九相図(死体の変化を描く絵)が描かれました。

この短編は、九相図を前に衆生が凡夫(人間)になる、そんな姿に近く私には感じられ、『私』が迷いの中に人として進む一つの儀式を美しく描き出されているように思えます。
作風としてはミレーの『オフィーリア』のような美しさを保ちながら、九相図の凄みが行間に漂うようです。

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